ただいま

ただいま


 十二時に目が覚め、また二時に目が覚め、フトンの中にいるのだけれどヒマ。


 ええいと起きだしたのが午前の三時。
 前夜用意したブドウパンなどを食べる。あと、カロリーメイトのブロックとコーヒー。わくわくする。早く走りたい。早く走って、帰ってきたい。去年のスタートから、わたしはまだ帰ってきていない。


 スタート。

いつも思うんだけど、パーンと音がしてから動き出すのに時間がかかる。タイムとしては、ネットタイムということでスタートを過ぎてからのものも出てくるのだけれど、その二分なり五分なりのタイムロスのおかげで、関門を通過できない後続スタートの人がいるんだろうになと思う。そのぶん、関門通過の時間も考慮されているのだろうか。
 
 スタートして競技場を出るとだいぶ周りが空いてきて、皆さんスピードを出しはじめた。トラックの中でのロス分を回復しとこうとしているのだろう。流れはキロ5分くらい。「そんなスピードでいったらもたないし」としっかり自覚のあるわたしはキロ6分15秒前後に修正して、どんどん抜かれまくっていった。Cスタートなのに、周りが後ろからスタートしたDばかりになっている。マジかよって思うんだけど、わたしの走るスピードのほうが正しいと信じて淡々と走る。
 
 萬代橋が壮観。橋のアーチに沿ってランナーだらけだもの。滅多にいけないからと、橋の真ん中を走った。
 橋を降りてFM・PORTの交差点で「つるかめ」の応援看板発見。Kー7さんが立っていた。感謝。元気が出るぞ。
 
 6キロあたり、千歳大橋を渡っていると、顔見知りのオヤジさんが応援していた。「つるかめのとめさん、もう先いってるよ」って言う。わたしよりかなり後ろにいると思っていたのに、前にいるとはビックリだ。彼女ったら焦ってペース配分まちがっているんじゃないかと心配したが、じつはガセネタ。他の誰かと見まちがいしているようだった。とめには15キロ地点あたりの給水所でのんびり水を飲んでいたら「やあ」と追いつかれた。
 追いつく前にとめが写真撮っていました。
 
 
 しばらく二人で走っていった。折りかえしのランナーが走ってきた。すごいスピード。こちらが半分も走らないうちに、もう10キロも差がついている。
 
 それからしばらくして「3時間」のペースランナーさんが走ってきたけれど、それもまたすごいすごい。あの世界に憧れるのはやめとこうと素直に思った。
 
 ちとせさん、笑顔で通過。manaさん「会長!」と声かけてくれて通過。nariさんともすれちがっているはずなんだけど見つけられなかった。
 
 そして、Ha-Se くん通過。わお、2キロくらいも先を走っているではないか。ちなみにHa-Se くん、とめの姿ばかり見えていて、わたしの存在には気づいていなかったそうだ。地味なのね、あたしってば。
 
 「去年よりすべてにわたってうまくいってる」と思って淡々と走った。海がキレイだった。
 
 道路に立っている温度計が20度から21度にあがった瞬間を見た。顔が火照る。暑いんだなあ、やっぱり。腰につけた水を飲んで脱水にならないよう気をつけて走った。10キロごとに激しく甘いゼリーを食べて栄養補給した。
 
 28キロ地点でとめと別れた。もうちょっとスピードを落して走るというので。

 いい判断かもしれない。彼女がこのまま7分以上まで落ちても完走できるだろうと信じて、わたしは同じスピードで走っていった。
 このあたりから、追い越されることは滅多になく、抜くばかりになっていた。けっしてわたしがペースをあげているわけではなく、皆さんがペースを落としてるだけなのだけど。
 
 走りはじめてすぐにモモの裏側に違和感の出た右足だけど、大丈夫と信じて走った。注射が効いているのでヒザの靭帯自体は問題がない。今日走り終えたらリハビリに専念するようにと言われて打ってもらった注射だ。


 青山の斎場を右に見て、今年1月、義父を送りにここにきたことを思った。ここで30キロの看板が出ている。時計は3時間10分。すべて予定どおり。


 関屋分水の橋を渡る。去年はここにエイドステーションがあってあずけてあった500のペットボトルを一気飲みした。今回はエイドステーション、なし。


 もっとも、今年から陸連登録の人以外のドリンクは受けつけなくなったので、わたしたちのドリンクは置くことができない。


 なんだか合理化とサービス低下を感じる大会になっているのではなかろうかと思うのだが、しょうがないのかな。
 
 橋の後半で「フジタさん!」と名前を呼ばれた。注射打ってもらっているお医者さんの受付さんだ。とめの友だち。私設エイドとしてわざわざやってきてくれたのだ。スペシャルドリンクをいただく。ほっ。「とめはあと5分くらいしたらくるから」と言って感謝しつつその場を立ち去る。もっとゆっくりしていたかったんだけど。
 
 さあ、元気もらってまた走る。

ほんとうに律儀に時計のとおり走っているわたし。今日はイーブンペースで走り抜こうと決めていた。とにかく我慢。


 去年は、この先で足がつった。右のももの後ろ側が戻らない。いったんつってしまうと、ストレッチしても治らない。痛いだけじゃなくて、動かなくなるから困ってしまう。今年はそうならないよう、こまめな水分補給を心がけた。

 去年は足が動かなくなって歩いてしまった場所を、今年は淡々と走っていく。


 ここでも大ぜいのランナーを追い越す。ガードレールにつかまってストレッチしているランナーもいる。足がつってるんだね。がんばれ。
 
 西海岸公園あたりで、私設くまくまエイド発見。10キロ走り終えてたあと、重たい荷物を背負って私設エイドを作ってくれたくま。感謝。そこで、コップ一杯のスポーツドリンクと、わたしが腰につけてるペットボトルに給水してもらってまた出発した。これで最後まで水は大丈夫だ。Ha-Se くんは二、三分先を走っているらしい。少しは縮まっているのかな。
 
 海岸線の風がちょうどいい。
 去年はこのあたりで雨が降ってくれたんだよな・・・なーんて思っているとき、沿道の女性と目があった。
 「フジタさんガンバレ!」という声援。およよ。そら豆しばちゃんじゃないか。「おう、がんばるぞ!」と返事したら。「もっとガンバレー!」と言われて笑った。よーし、もっとがんばるかと、そのあたりにいたランナーを三人ほど抜いた。
 
 そしてその先で「フジタさんフジタさん」と跳ねている女性発見。これまたお医者さんのナースさん。とめのお友だち。ゼリーを一個くれた。感激のハグをしようと思ったけれど、人が見ているのでやめた。ちゅうか、そういうことしたら叩かれそうだし。ゼリー飲みながら走っていった。手持ちのぶんのゼリーといただきもので、お腹がすくことなく走ることができた。
 
 36キロ地点で蛍光グリーンの帽子を発見。おっと、ここで見つけたぞHa-Se くん。「おーっす、大丈夫だかー」と声かけて抜いてった。ではでは。
 
 ここでもキロ6分15秒前後。ラップはずっとこんな感じ。
 みなととんねるの関門を過ぎてつるかめの青木さん発見。「やあ」と声かけたら「あと5キロです」と言われた。そっか、あと5キロであるか。よしよし。去年はこのあたりはもう足が動かずゾウガメよりも遅い歩みであったなあ。「まだ間にあう」と沿道から声援をもらったのだけど、動かないものは動かないんだよなあと思ったものだ。
 
 今年は動いている。淡々とランナーを抜いている自分を褒めたい。
 
 「いってきます」と言ったまままま一年間もどってくるのを忘れちまった気分だった。やっと「ただいま」が言える。一年かかっちまったなあ。
 
 歴史博物館の敷地の中を通過。

やすらぎ堤の横を淡々と進む。
 道路の真ん中にコーンが立っている。去年は、わたしが通過するまえにどんどんコーンが片づけられて、後ろからパトカーが走ってきて「はい、終了となりますので歩道にあがってください」と言われて悔しかったあと二キロ。
 今年は走っているぞ。スタートのときと同じスピードで走っているぞ。

 係員のオバちゃんが、「かわいー」と言った。「え? かわいい? わたし?」と思ったら、帽子につけたつるかめワッペンのことだった。意外と人気のつるかめ印。
 
 競技場の交差点に入った。

よーし、まだ抜けるまだ抜ける。オレは元気だあ。


 さあ、ゴールだ。みんな待ってるかあ。いくぞー、いたー!
 
 
 一年かかったけど、ただいま。帰ってきました。
 
uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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