「行ってらっしゃい」を言えなかったわけ

 最初にお断わりしておきます。
ハッキリ言ってビロウです。これを読んだせいで食欲がなくなり、その結果かなり痩せてしまってダイエットに成功したなんてことになっても責任もてません。だから、痩せたくない人は、ここから先は読まないほうがいいと思います。
 
・・・あ、まだ読んでいるんですか?
ということは、いいんですね?
痩せてしまってもいいんですね?
 
じゃ、しょうがないからそーいうことではじめます。
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新潟駅の駐車場に着いたのは朝の6時15分。

バスの受付は6時40分にならないと始まらない。
車をとめて娘と二人でいた。

珍しい父と娘の時間。
しかし、25分ごろから、どーもね。

どーも、わたしの腹具合がおかしい。ゴロゴロ言う。いや、一気にスタンバイ完了。いつでもOK。ああ、たったいま漏れそう。鳴り響く便意の最終通告。
「あ、あのさ、少し早いけど、バスんところにいくか?」と言うのに、娘は「まだヤダー」と言う。なんだよ。いつもはおとうさんのそばにいるのがイヤなくせに。
 
「お、おとーさん、トイレいきたくなっちゃってさ」

「いけばー」
「う、うん。じゃ、ちょっといってくるね。すぐ戻ってくるから」と、駐車場の隣にある公衆トイレにダッシュ。
しかし、ガビーン!

そこにあったのは、なんじゃこりゃ状態になっていた便器であった。超ビロウな模写になるので詳しくは書かないが、とにかくナンジャコリャーなのだ。オラそんなところでやりたくねーだ。
ここでもし強行し、万が一わたしが出たあとに誰かがくれば、きっと彼はわたしを疑う。哀愁の清純派エッセイストが、じつはトイレでウンコ漏らしたなんて噂が出てしまう。それはいかん。それは避けねばならぬ。だから耐えた。ウンコよりも人間の尊厳を選んだ。偉いな、おれ。
そんなわけで、もーしょうがない。ほとんど動けぬ状態ではあったが、回れ右して駅に向かってわたしは走った。そにこにコンビニが見えるのだ。コンビニの中に入ってトイレを借りればいいのだ。翼よ、あれがトイレの灯だ!
大胆に走れないので、尻に力を入れて、小走り。な、なんか、こきざみな欽ちゃん走り。ちょっとしたショックでいつでも「こんにちは」しそうな状態さ、いえぃ。
コンビニに入った。

若い女性店員さんに「先にトイレを貸してください」と渋い声でお願いした。
「ほんとはわたしのような清純派エッセイストはウンコなんてしないんですけど、今日に限って30年ぶりに出そうなんです」とテレパシーで伝えた。
 
しっかし、彼女は「すみませーん。使用中止になっていましてぇ」なんてことを言った。きーっ! なんざます! トイレが使用中止って、それでいいのかあ! トイレの使えないコンビニなんてコンビニじゃなーい(極論)。
しかし、彼女に説教している余裕はない。もう「こんにちは、ぼくウンコです」状態なのだ(どんな状態だい)。
「わ、わっかりました・・・」とソッコーでそこを飛びだし、駅の構内に入ることにした。駅の中にはトイレはある。政令指定都市にある新潟駅だ。トイレは万全であろう。
いつ外国の要人がやってきて「あ、もれそうざんす」なんて言うことがあってもいいように、トイレは大量に用意されているはずなのだ。
し、しかし、いくつか構内に入る扉があるのだが、途中でシャッターが閉っている。ああ、どっから入ればいいのだ、新潟駅ぃ! 脂汗流しながら壁づたいに走って、あ、や、やっと中に通じるドアを見つけた。なんと、そこを入ったらすぐにトイレのマーク。おお、神はわたしを見捨てなかった!
し、しかし、そのトイレの扉の前にはなんと「使用時間 朝7時から夜11時」と書かれているではないかあ。なんだよー、時間制限のあるトイレなんて、生まれてはじめて見たぞオレー。
おまえー、便意に個人差があってはイカンのかあ。朝の7時じゃなければしちゃいけないのかあ。6時半過ぎに出そうになる人だっていてもいいじゃないかあ! 便意の民意を汲み取れー。責任者出せー。こらー。
 
・・・と、心の中で毒づきながらも、もはやそこで立ちどまっている猶予はない。
とにかく走れ。止まってはイカン。止まったら出る。漏れる。肛門括約筋フル稼動。
 
上りのエレベーターを見つけた! ダッシュで駆け上がった。上がった上がった。ああ、そこにもあったぞトイレのマーク。だっしゅだっしゅだーっしゅ!
メロスは激怒した。ああ、走れメロス! 走れメロス! と心の中で叫びながら走った。待っていろセリヌンティウスー!
 


そんなわけで、間にあいました。もらすこともなくミッション完了。ほっ・・・。ああ、なんと清々しい朝。全世界の人々が幸せでありますように。
なーんて朝の祈りを捧げていたら
・・・あ (゚▽゚*) 「あ、娘が!」と気がついた。ウンコにかまけて娘のことを忘れていたサイテーの父、それがわたしだ、えっへん! あ、イバることじゃないけど。
 
 
 
ダッシュで車に戻った。
しかし、すでに娘はいなかった。乗車時間になってもわたしが戻らないため、娘は一人でバスに乗り込んだのだ。
 
これが「娘に『行ってらっしゃい』を言わぬまま別れてしまった」ことの真実である。
ああ、感動したでしょ? ねえ、したでしょー!
 
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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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