頼まれればやりやすい

 じつはわたしはけっこう迷うタイプなのだ。



 目の前で助けを求めている人がいるのならば、それを手伝うのにやぶさかではないが、もしかしたらいらぬお節介かもしれないし、なーんて迷う。



 たとえば、微妙な年齢のお年寄りが電車に乗ってきて、わたしの前に立ったとする。



 こんなときは激しく迷う。席を譲ったらいいのだろうか、でも、もし譲ったりしたら「自分はそんなに年寄りと思われているのだろうか」とショックを受けるかもしれないじゃないのか、いや、それどころか「バカにすんな!」と怒る人もいるかもしれないじゃないか、ああ、どうしようどうしよう。



 ・・・と悩んでいるうちに隣の青年が「どうぞ」なんてニコヤカに席を譲って、譲られたお年寄りも心から「ありがとうございます」なんて言いながら席に着き、それを見ていたほかの乗客は「ああ、今どきの若い者は立派だなあ。それにひきかえあのオヤジは知らん顔だぜ」なーんて非難ゴーゴーの視線を浴びることになるかもしれないじゃないか、ああ、どうしようどうしよう、と激しく逡巡するのである。





 暮れに母が救急車で運ばれたとき、待合室の椅子に腰かけていたわたしの目の前に電動車椅子のおじいさんが止まった。



 「ん? どうしたのかな」と思って見ていたら、おじいさんはヨロヨロしながら立ちあがった。右半身が不自由なようだ。



 車椅子の後ろにある板状の突起にビニールの布らしきものを左手使ってメガネクリップで挟み、それをまた左手だけ使ってひっぱっている。



 しかし、いったいなにをやっているのだろう? 見当がつかない。ぼーっと見ていた。



 何分かそんなことをしているのだが、突然おじいさんが「やかましくて申しわけありませんねえ」と言った。



 それで、「あ、おじいさんはもしかして困っているのだなと」と、やっとわかった。



 「やかましくないですよ。なにか手伝えることありますか?」と聞いた。



 そしたら、ポンチョ(ビニールの布はポンチョだったのだ)を電動車椅子ごとすっぽり被りたいと言うのだ。診察終わって帰ろうと思ったら外は大雨になっていたそうで。





 なるほどなるほど。それで後ろがパタパタしないようクリップで止めていたのだな。



 おじいさんの指示どおりポンチョをおじいさんと車椅子にかけ完成。足先まですっぽり。これで濡れない。わたしがやれば1分かからない。



 もっと早くから手伝えばよかったと思ったけれど。

 わたしのような迷うタイプの人間は「手伝ってほしい」と言ってもらったほうが動きやすいんだけどねえ ( ̄∇ ̄;)






uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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