ブラウンシューズ

 松原みきという歌手がいた。

 いた・・・というのは、すでに彼女はなくなっているから。

 わたしより一つ若く生まれ、そして44歳で逝った。



 彼女の歌は、青春時代のわたしのカーステレオから流れる定番でもあった。





 「あいつのブラウンシューズ」というタイトルの歌がある。

 あいつというのは、その歌のヒロインの彼氏である。



 あいつが忘れていった古いブラウンシューズになぞらえて、ふたりの愛を歌う。



 あいつの忘れていったこんな古い靴だって、磨けば光る。

 愛だって同じ。磨かなくっちゃ ただの恋。
・・・という意味。





 じつはわたしの普段の靴も、ブラウンである。

 ドクターマーチンが好きで、茶色のを何足か持っている。いつも履いているのは、ちょっと大きめの古いタイプで、カカトがかなり減った短靴(修理にいかなくっちゃ)。それを履いたまま走ったりすると途中で脱げそうになるのだが、サンダル感覚でスポッと履けて便利なので、いまのところいちばん出番がある。かなりへたっているけれど、靴クリームはしっかりと塗っている。だから濡れても大丈夫。





 実際にわたしが履いているものではないが、これと同じものだ。



 講演会なんかにいくときは、もうちょっとまともなドクターマーチンを履く。先ほどのと同じ型だが、あまり傷んでいないよそ行きタイプ。



 雪が深く降ったら、編み上げのドクターマーチンを履く。ヒモを結ぶのが面倒だけど、雪の中でガシガシ動ける。爪先に鉄板が入っているので、象が踏んでも壊れない。



 あとは、黒いのと、やたらとカカトの高いドクターマーチンの短靴を持っているが、この二つはほとんど出番がない。まちがって買ってしまったという噂。そのほかにも・・・あ、いや、わたしのブラウンシューズはどうでもいいだ。



 どうもその歌で気になることがあるので、それで今回は書きはじめた。



 長いこと心の中に棲みついていた疑問。それは、その歌の中の「あいつ」が彼女の家に自分の靴を忘れていって、いったいなにを履いて家に帰ったんだろうかってことなのだ。わたしにはそれが気になってしかたない。



 わたしらの年代だと、女もののサンダルを履いてブイブイやっているのもちょっと流行った。



 だからあいつは彼女のサンダル履いてスーパーの駐車場あたりでヤンキー座りしながら「なに見てんだよ、こら」なんて息巻いてて、そしてそのまま自宅に帰ってしまったのか・・・という雰囲気はまったくない愛の歌。



uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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