名作劇場2:全米が泣きまくり。特殊な運動の続編感動実話「ウエスタンサック」
ウエスタンサック
特殊な運動を含む心電計の数字と紹介状をもって、市内の総合病院に行ってきた。
そこでしっかりと心臓の精密検査をした結果、ついに異常個所が特定されたのだ。
病名は「陳旧性心筋梗塞」
心筋梗塞はよく聞くけれど、なによ陳旧性って? 陳建一なら知ってるんだけど。
と思って調べてみたら、ようするに「心筋梗塞になっていましたよ」という過去形の状態らしい。
しらないうちに心筋梗塞になっていたオレ。意外と鈍感。
そんな状態なのに、オレはずっと特殊な運動(あくまでもキックボクシングのことです)を続けていたのだ。
「このままほおっておくと一年以内に深刻な事態になります」とお医者さんに言われた。
深刻な事態とは、具体的に言うと「死ぬよ」ということらしい。
ひえー、それは困るからなんとかしてくださいとお願いした。
そして、入院。
方法としては、局部麻酔で股間の動脈に穴をあけ、そこから針金みたいなのを心臓まで通し、そして血管の詰まったところを広げてあげるという作戦なのだ。
滅多に事故のない安全な治療なのだが、ごく希には血管を破るような失敗をすることもあるらしく、そのときはそのまま全身麻酔の手術に移行するのだそうだ。
だから「そのときのために、今回は前もって導尿のカテーテルを膀胱まで入れます」と、担当の先生に言われたのである。
しかし、そこで恐怖におののくオレ。
全身麻酔で寝ているときに入れられるならしょうがないけど、意識のあるうちにあんな不自然なものをあんなところから入れるなんてイヤンイヤンとダダこねた。
だって、痛そうだろ。いや、実際に痛いってみんな言うしー。
「お願いですセンセ。いい子になるから、それだけはやめて。あんな管入れられたらボク泣いちゃうから」と手術の朝にさんざん頼み込みこんだら、先生も根負けしてくれた。
「まったくもー、しょうがない人ですねえ。じゃあ今回だけとくべつですよ。カテーテルを使わないかわりに、これから売店にいって『ウエスタンサック』を買ってきてください」と言って先生は去っていった。
おお、ウエスタンサック。
直訳すると西の袋・・・ああ、意味わからない。
ナースに聞きにいったら教えてくれた。
つまり、尿道に差しこむ導尿カテーテルのかわりにブツにすっぽりと被せるタイプの「自然な状態でご使用いただける採尿具」とのことだ。
まあ、自然かどうかはハナハダ疑問であるが、尿道にカテーテルを入れられるより3万倍嬉しい。
形状はまさにあのゴム製品を想像してもらったらいい。
その先っぽに細い管がついていて、オシッコした場合はそこを伝わって流していこうじゃないかという、とても平和的な器具である。
しかしなぜ「ウエスタン」という名がつくのかは誰にもわからなかったが、そのあたりは問題にしなくてもよかろう。
ウエスタンでもイースタンでもオレはかまわんのだ。尿道に管を差しこむ導尿カテーテルよりもずっとよいシロモノであることがわかっただけでも嬉しいのだ。
その後、先生の気の変わらないうちにと、全財産の入った財布を握りしめ、売店にすっとんでいった。このさい金に糸目をつけん。いくらでも出すつもりで走っていった。、待ってろ、オバちゃん。ヒマで何度も売店に行っていたので、小太りのオバちゃんと仲よしになっていたのだ。
「いやー、オレもとうとうウエスタンサックですよー、かっかっか!」
「あーらオニイチャン、オトナになったのねえwww」
なーんて会話を想定しながら売店に行ったら
そしたら、いつもいるオバちゃんとはちがってハタチほどの女子が店番していたではないか。
いやいやいや、ちょっと焦った。やはりどーも、ナニにナニするモノがものだけに、若い女の子が相手だとちょっと恥ずかしい気分である。
しかし、買わないわけにはいかない。ここを逃したら導尿カテーテルなのだ。
だから小さく低い声でニヒルに「ウエスタンサックをください」と言った。
イメージとしてはゴルゴ13がウエスタンサックを買う感じ。
オレの後ろに立ったら死ぬぜっていうオーラ。
しかし、女の子はゴルゴ13にも動じることなく、想像以上の元気さで「はい、ウエスタンサックですね!」と大きな声で復唱してくれた。
い、いや、そんな大きな声を出さなくても耳聴こえるしと思いつつも、「はい・・・」とちいさな声でニヒルに返事するオレであった。
そうしたら
「ウエスタンサックのサイズはいかがいたしましょう?」と彼女はわたしに訊くのである。
想定外の質問に焦ってしまった。
「サ、サイズっすか?」と、ニヒルなゴルゴ13を演じていたのに、思わず高い声が出てしまった。
「はい、S・M・Lとございまーす!」
サイズがあるとは知らなんだ。
うろたえるワタシ。
「あ、あの、み、皆さんはいかほどのサイズのを買っていくんですか?」なんて聞いてしまった。
「さあー。人それぞれですからー」と彼女はお答えになる。
た、たしかにブツは人それぞれだから、サイズ別に分けられているんだろうけどな。
しかし、己のサイズが世間様と比べてどうであろうかなんてのは、ハッキリ言ってわからない。
自分の頭の大きとか足のサイズとかなら人さまとの違いもわかるが、あのブツに関しては通常は人前に出しておくものじゃなし、オレ、わかんないわー!
しかし、なにか答えなくてはイカンのだ。
そこでなんか見栄はっちゃう年頃のワタクシ。
「じゃあ L をひとつ」
ゴルゴ13に戻って低音でシブく言っちゃたのである。
はっはっは、Lだぜ。 I'm bigger than you ! だぜー。
どうだまいったかと、なにも知らずに後ろに並んでいるオヤジをチラッと見て心の中でイバっちゃったりするオレ。
「では、これになります。根元を付属のテープで止めてお使いください」と、ビニール袋に入ったちいさな包みを渡してくれた。
勝利の喜びに浸るオレの気持ちを無視し、ハタチの彼女は冷静に業務を遂行している。
ま、しょうがない。オンナにはわからないオトコの世界だ。
「おいくらですか」とニヒルに聞くオレ。
金に糸目はつけないつもりだった。
あの凶悪なカテーテルのかわりなのだ。
オレはいくらでも払う。愛はないが金ならある。
場合によっては借金してでも払う! オヤジにないしょで田んぼ売るから。そんな覚悟もあった。
「180円です!」
え、ええ? ひゃ、ひゃくはちじゅーえん? 180万円じゃなくって、180えん?
ああ拍子抜け。最低でも数万円と思ったのに。でもよかった。田んぼ売らなくても買えた。
そんなわけでいろいろあったが、とにかく180円のウエスタンサックを手に入れることができた。
そしてナースセンターに行って「無事にウエスタンサック買ってきました! Lです!」と報告したのだが、オレの感動は彼女たちに伝わり難かったようだ。
「じゃあ、時間になったら一人で装着してベッドで待っててください」と冷静な声で言われた。
自分で? あ、あら、セルフなのね?
まだ時間には早かったが、万が一まちがったりするとわるいので、早めにやっておくことにした。
ベッドのカーテンを閉め、「さて」と取り出したウエスタンサックを見て亜然!
「で、でかくね?」
そして、装着してみて呆然。
アメリカンサイズである。
あいつらいったいどれくらいのブツを持っているというのだ?
根元をテープで止めてもスッカスカ。
これじゃあイカン。
さすがに使えん。
180円持って、あわてて買い直しに売店に走ったオレである。
めでたしめでたし。
追伸:
買い直したサイズなにかって?
そ、それはプライベートなことなので書きたくない。
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