アタリマエのこと3

 いつものように息子を自転車に乗せて保育園に向かっていた秋の日のこと。


 お父さんの自転車は速いんだぞーって言いながら、猛スピードで走っていた。

 息子の友だちを載せたおかあさんがたの自転車をゴボウ抜き。「わー、すごいすごーい」と息子は喜んだ。稼ぎのわるいロクデナシオヤジは、こんなことくらいしか息子にしてあげられない。


 

 「あっ」と、息子が指さしたその先に、赤トンボが飛んでいた。「うん、トンボだな」と答えたのだけれど、わたしとしては、べつだん珍らしくもない。そのまま走り去ろうと思ったのだが、息子は「トンボだトンボだ。お父さん、トンボだよ」と、それがあんまりうれしそうなので、「よし、今日はトンボをつかまえにいっちゃおうか」と息子に言ったら、即座に「うん」という返事がかえってきた。


 そんなわけで、いったん家に戻り、保育園に電話して「今日は息子の具合がわるくて休みます」と伝えた。「おだいじに」という返事にやや罪悪感を抱きつつ、息子を乗せて自転車の旅に出た。


 その日はどのくらい走ったことだろう。途中、自販機でジュースを買って、それを息子の通園カバンに入れ、もっともっと走っていった。車でしかいったことのない遠い場所を、ママチャリで走っていった。


 そして、稲刈りの終わった田んぼに到着。もう、お昼の時間になっていた。

あぜ道に自転車を止め、息子の通園カバンの中からお弁当を出して向かい合って二人で食べた。 

 

 息子の半ズボンから、かわいいチンチンがはみでている。


 「わはは、おまえ、チンチンが出てるじゃないかー」と指さして笑ったら、息子はそこをチラッと見て言った。

 「知ってるよ。朝から出てるんだよ」と、なんら動じることなく、真面目な顔でオニギリを食べていた。







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