アタリマエのこと・ファイナル

 息子にとって、半ズボンからチンチンが出ているなんてことはアタリマエのことであって、そんなこといちいち問題にするようなことではないらしい。


 まあ、よかろう。


 ご飯を食べ終わり、息子はあぜ道にいるコオロギやバッタを探すことに夢中になっていた。その後ろ姿を見ていて、ふと息子の名前を呼んでみた。


 息子は振り向き「なあに?」と聞いて、わたしが黙っていたら、すぐにまた顔を戻して虫さがしをはじめた。


 「あのさ、○○○はお父さんのこと好きか?」

 と、こんどは息子の後ろ姿に聞いた。小さな頭がかわいかった。


 虫さがしに夢中の息子は、顔もあげずに言った。

 「アタリマエでしょ」と。


 そんなアタリマエのこと聞いてどうするの。ボクはいま忙しいんだから、そんなわかりきったこと言わせないでよという感じだった。


 うれしかった。 

 息子にとって、わたしのことを好きでいるのはアタリマエのことだった。こんな父親でも、息子はアタリマエに好きなのだ。


 そうかそうか、アタリマエかとつぶやいて、そのまま後ろに寝ころんだら青い空が見えた。頭の上には空があるなんて、アタリマエのことなのにしばらく忘れていた。


 こんな親でもいいんだ。こんな親でも息子は好きでいてくれるんだ。よし、がんばろうがんばろう。自分を嫌いにならず、がんばろう。


 目をつむったら、耳もとで、トンボの羽音がした。






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この日のことをエッセイに書いて大阪の某社に応募したら、それが大賞になった。

そこから連載の仕事をいただくようになり、そしてさまざまな縁で、いまにつながっている。


uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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