ヘソがありすぎ

 前にもアメカゴに書いたことがあるけれど、私の体は脱いだらすごい。

 なにがすごいって、背中に
彫り物の入れた若者と更衣室でいっしょになったことがあったが、彼に「兄さん、その傷はどこで?」とマジで聞いたくらいだ。


 「あ、これね? 若いころ、ちょっと刃物でね」と答えたら、「兄さん、かなりの修羅場を見てきたんですね」と感動してくれた。まあウソじゃない。メスだって刃物だものね。修羅場と言えば修羅場だし。



 ようするに、体に縫い目が100針ほどある。  まあ、傷はしょうがない。生きているがゆえの傷だと思ってあきらめてはいる。
 しかし、一ヶ所だけ、どーも気にいらんところがある。ヘソの右上あたりにドレナージで体内の胆汁を三か月ほど外に出していたことがある。そのドレンパイプ(誘導管)を抜いた跡がどうにも気にいらん。そこだけちょっと凹んじゃってる。 




 そんなわけで、いつもの女医さんのところにいったとき、「センセー、この傷を治しておきたいんで、どこかいい病院紹介してください」と言ったら、マジマジと見て「あー、これは美容整形になっちゃうから高いわよー」とお答えになった。
 「高いっていくらくらいっすか?」

 「知らないわあ、相場は。わたしは専門外だし。でも、けっこういっちゃうでしょ」

 「先生の知りあいってことで割引ないっすか?」

 「むりむりー」
 ようするに、よくわからんけど、病気じゃないから金がかかると。
 「あなたねー、ヘソがねー、二個あると思えばいいのよ。多いほうがいいわよー」なんてこと言う。
 「センセ、医学部出たんでしょ? 哺乳類にヘソが二個あったらヘンだって習ったでしょ」と言ったらやたらとウケた。ケラケラ笑って息ができなくなって、酸欠でヒーヒー苦しんでいた。
 「でもねー、ヘソがないよりいいのよ。あんまり太っちゃってヘソの穴が消えちゃったおばあさんがいるんだから」と言って、その場面を思い出したらしく、また笑いだしてヒクヒクと酸欠になってた。
 「だいじょうぶっすかセンセ」
 「とにかく、二つめのヘソはアナタが生まれかわって人生の再出発をしたと思ったらいいのです、あははははー」
 やららウケ続けている。
 「あのー、いまさら生まれかわる必要性を感じないんですけど。説得力ないっす、センセ」

 

 「あはは、文才ないのねアタシ。ひー、くるしー」 


 なんかいつもにましてヘンな先生であった。黙っていればかわいいのに。



uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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