やさしいお母さん

 悲しいことなのに、それを「いいお通夜だった」と言うのはどうかとも思うが、ほんとうにそう感じた夜だった。

 とても悲しいことだけど、いい人たちの集まった、とてもあたたかなお通夜だった。


 わたしのエッセイの二番弟子、ちるにーのお母さまが、亡くなった。


 いちどもお会いしたことはなかったのだが、アメカゴのちるにーの日記によく登場していたので、わたしの中では「よく知っている人」だった。


 やさしいお母さんだと知っていた。みんながお母さんのこと、ダイスキだって知っていた。


 会場の入口に飾ってある写真でお顔を見たときに、その笑顔があまりにやさしくて、わたしは涙が出そうだった。もう、この笑顔を見せてくれないのですねと思ったら悲しくて。


 でも、みんなががんばって笑顔を作っているのだからと、そう思って、わたしもこらえた。唇に歯形がつきそうだった。


 「BGMはオフコースなんだよ」と、笑顔のちるにー。

 彼女はいつも懸命に笑顔を作っている。その笑顔の後ろに、涙がいっぱい あったことだろうに。


 会場には、お母さんが好きだったという小田和正の歌声が静かに流れていた。


 病室にも、いつも音楽がかかっていたという。

息をひきとるそのときも、静かな部屋に、静かに曲が流れていたという。


 みんなとっても悲しいだろうに、「母は笑顔が好きでした。だから、わたしも最後まで泣きません」と、ちるにーの弟さんの挨拶があった。


 そう、目には涙がいっぱい光っていたけれど、彼は最後まで泣かなかった。わたしたちが見ていないところで、いっぱい泣いただろうに。立派だった。



 棺の中に「ハハ」と書いた似顔絵。

 お母さん、お母さん。優しいお母さん。

 笑顔のきれいなお母さん。

 お母さん、みんな、お母さんのことがダイスキです。


uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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