蹴ったら痛い

 武道関係の役員をやらせてもらっているからだと思うが、このわたしに「うちの子に武道を習わせれば、立派な人になれるでしょうか?」と、聞く人がいる。


 たしかに武道のイメージとして、習っていれば立派な人になれそうな気もする。でも、答えは「そんなこと、わかりません」なのだ。


 なれるかもしれないし、なれないかもしれない。
 いや・・・ 立場を忘れ、正直に言わせてもらえば、「武道を習ったからといって、それだけで立派な人になんてなりません」が正解と思う。
 武道と人間性は別物です。



 しかし、武道にかぎらず格闘技をやると、自分が相手に与える「痛み」を知ることができる。


 知るからこそ、私生活において、その痛みを相手に与えようとするか、それとも与えまいとするのか。

 うちの息子は、保育園の年長のときからずっとテコンドーをやっていた。
 親のわたしがいうのもナンだが、そこそこ強かった。

 しかし、あるときとてつもないスランプが訪れた。たしか四年生のころだったと思うが、試合に急に勝てなくなったのだ。ミット蹴りはとてもうまいのだけれど、人が相手だとぜんぜんダメになってしまったのだ。






 その理由はというと・・・
 「だってね、お父さん。ボクが蹴るとね、蹴られた子は痛いんだよ」というナントモハヤの理由なのだ。


 「だから、ボクは蹴りたくないの」とまあ、それは息子的には深刻な理由だったのだ。


 なるほど、そうきたかと思った。

 正直言って、こちらの忘れていた感覚である。


 まあ、そういう理由なら、無理矢理させることもない。相手の痛みをわかるようになっただけでもいいことなのだ。
 実のところ、武道には息子の疑問にたいする答えは用意されているのであるが、今日はちょっと意地悪して、ここで書いてしまうのはやめておこう。
 この時期、息子はとても弱かった。しかし、親としては、ちょっと嬉しいときでもあった。






uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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