限界

 パソコンの中から、むかし書いたエッセイが出てきた。

商業的なところに発表した覚えはない・・・し、発表できない内容である。今後日の目を見ないような気がするので、ここに載せておこうと思う。



 ちなみにビロウなネタなので、お食事中、もしくは、これからお食事するという人は気をつけて読んでほしい。


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 「限界」

 

PTA会長というのは演説が好きにちがいない。

とりあえず話をフラれれば待ってましたとばかりに堂々と喋るじゃないか。

 しかし、中身がない。同じ内容をくり返す。「結論をいえ、結論を!」と胸ぐらつかんでグラグラにしてしまいたい衝動にかられることもしばしばなのだ。
 先日、市のPTA飲み会にいってきた。場所は、某公共の教員施設。

飲み会の前に研修会があり、そこで司会をつとめたわたしは、終わった後はぐったりと疲れ脱水状態であった。早く水分をとらねば干からびてしまうという危機感にかられ、自動販売機からコーヒーを買いグビグビと飲んだ。そのあと喫茶店に入りトーストセットを食べた。そんでもって、そのあとにまた缶コーヒーを飲んだ。それがいけなかった。
 宴会の席に着いたとたん、腹がゴロゴロしてきた。腸内異常発酵、腹圧上昇、外気圧比230パーセント。危険です、このままでは爆発しますという状態になった。しかし、おエラいさんばかり集まるこの宴会、乾杯が終わるまで席を立つには目立ちすぎる。ここは耐えるしかない。
 ああ、なのになのに市の会長の携帯に電話がかかってきた。乾杯できんではないか。マナーモードにしろマナーモードに。こら、世間話なんぞはじめるんじゃない。顔面蒼白、腹部膨満。
 長い長い電話が終わった。「お待たせしました」なんてテレ笑いする会長であるが、オマエ、月夜の晩だけじゃないってことを覚えておけよ。
 司会者が「えー、皆さま今日はお疲れさまでした。無事に研修会も終わり・・・」なんて脳天気に話している。ええい、前置きが長ーい。お疲れさまだけでいいではないか。誰もオマエの話なんぞ聞きたくなーい。早く乾杯しろかんぱーい。
 「・・・・では、乾杯の前に、今回お招きした昨年までの理事さんの三人さまにごあいさつをいただきたく・・・」
 いただきたくなーい。遠慮したい、積極的に遠慮しまーす。

し、しかし、わたしの遠慮をよそに、お招きされた理事さん三人が延々と喋りだす。わかったわかった皆までいうな。あんたは偉い。ワシが悪かった。そ、それでいいんでしょー、ねえ、いいんでしょー!
 もはや限界である、ほとんど便意の最後通牒である。「このままではひどいことになるよキミ」とわたしの大腸が警告している。い、いや、待ってくれ、ここはひとまず耐えてくれ。もうすぐ終わる、もうすぐ終わるー。ああ、こんなことなら席についてすぐに「ちょっと野暮用が・・・」とかなんとかいってトイレにいっていればよかった。
 あああーもうダメ、うに子耐えられなーい・・・。

ということろで三人のあいさつが終わった。三人目の人が、意外と常識人で話が短かったから助かった。Sさん、ボクは一生あなたについていきます。
 やった、ついに乾杯だ乾杯だ、これでトイレにいける、よかったよかった操は守った・・・と思ったら、こんどは会長のあいさつではないか。「週五日制になり生じた諸々の問題を前に・・・」いやーん。ボクはいま教育改革の諸問題よりも、目の前にあるたったひとつの問題のほうが大切なんです。宴会前にそんな小難しい話をするなー、こらー、あほー、タヌキー。
 プルプル震えながら毛穴を開いたまま一点を見つめ、「ほかのこと考えよう、なにか楽しいこと考えよう、ウンコのことは忘れよう、忘れよう、ああ、漏れるー」と思考はデタラメ、脳ミソ錯乱、鳥肌ぶちぶち。
 「では引き続き乾杯の音頭を・・・・」や、やった。
 「ただいま御指名にあずかりましたナンタラカタラでございます。このたびは・・・・」ええい、どーでもいいではないか。わしゃ、オマエが誰なのかはぜんぜん興味がなーい。頼む、いかせてくれ、いかせてくれー。金なら払う、金なら払うから、早くトイレにいかせてくれー。
 「あ、栓抜きがありませんねえ。仲居さん呼んでこなくっちゃ」

こ、こら、アホ司会者。責任者呼べ責任者。ワシが総理大臣ならオメーは生きちゃおれんぞ、うっ。
 しかし、耐えた。わたしは耐えた。なにごともないように乾杯まで耐えた。隣のオヤジにもビールを注いだ。あとは「あ、電話しなくっちゃ」とかいいながら席を立つだけなのだ。
 いや、立った。ちゃんと席は立った。部屋からも出た。

しかし、部屋から出たとたんに、向かい側の部屋から出てきた理事に見つかった。われわれと別の集まりがあり、先に飲んでて上機嫌なのだ。
 「おやー、藤田会長さーん」

 「あ、ども」軽く会釈してその場を立ち去らねばならない。もはやこちらはウンピーがそこまで「コンニチハ」している状態なのだ。不義理よりも人間としての尊厳のほうが大切だ。
 「どーしちゃったんですー、そんなに急いでー、ぐひひーっ」

 ぐひひーではない。ぐひひーどころではないのだワシはっ。
 バカ理事を大外刈りで倒しトイレに直行した。相当酔っているから、倒されたことも覚えちゃおるまい。もうすぐだ、もうすぐ楽になれる。


 ああ、それなのにそれなのに

 「故障」の看板。「水が出ません」と註まで入っている。ボーゼンとしているところで先ほどの理事がやってきて「あら、どっしたのー! がははーっ」と背中を思いっきり叩いてくれた。
 このあとのことは、・・・語るとすれば、わが子が成人してからだ、な。



uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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