トラクターの極意

 父が脳梗塞で倒れてからは、畑をトラクターで耕すのはわたしの仕事となった。
 ここでちょっと自慢させてもらうが、私は大型特殊の運転免許と作業免許を持っているのだ。ようするに、ブルドーザーやショベルカーなど工事現場で大活躍のマシンを操る免許である。


 そんな私であるから、わが家のちっちゃな農耕用トラクターなんてお茶の子さいさい屁のカッパ。私の高度な技術をもってすれば、荒れた大地も一面鏡のように真っ平らに耕され、「あら、藤田さんってエッセーも書けるけど畑も耕せるのね、ステキー」と農家の奥様がたから絶賛のアメアラレだったのだ、当初の予定では。


 しかし、実際は私が耕したあとはまったくもって凸凹で、まるで荒れる冬の日本海のようにうねっている。


 聞けば、コンピューターの姿勢制御装置がついた現代のマシンを使ってここまで凸凹に耕すことは至難の業らしい。

 みんなが「すごいすごい」と言うのでなんだかちょっと得意な気分。しかし、母は怒る。見た目ほど収穫に差があるわけでもあるまいに、「世間体がわるい」と言うのである。

 なんどやってもうまくいかない。ぼんやり波打つ畑を眺めていたら、農機具屋さんに勤める近所のオヤジさんがトラクターを調べてくれた。


 すると、姿勢制御を受け持つワイヤーが上下逆につけられていたということが判明した。本来ならば凸凹した地面を平らにするため、高いところでは低く、低いところでは高く耕すはずなのに、それが正反対に作用し、高いところではより高く、低いところではより低く耕すようになっていたらしい。ちなみに、ワイヤーを上下逆さにつけたのは私の仕業。はじめてトラクターに乗るとき、なにげなしにいじっていたらワイヤーがとれて、それを戻すときに反対に取り付けてしまったようだ。


 まっ、文明の利器も、わたしの手にかかればこんなものだ、えっへん(開き直った)。




uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

0コメント

  • 1000 / 1000