月を追って、警察には追われて。





見えますか? 右の上に白い真昼の月がいます。


 今日は、この月を追っていました。

なんとかいい写真が撮りたいなあって思って。




 そして、ついたところがとある大型駐車場。

 端っこのほうに止めて車から降りて空を見あげたら、さっきまでいた月がいません。雲に隠れてしまいました。
 うーん、残念。まあ、待っていればまた出てくるだろうと駐車場にあるトイレにいって、車に戻るまでのあいだに雲の写真を何枚か撮っていました。



 「はい」と、返事をしましたら、
 「最近このあたりに車上荒しが出ているんですよ」とおっしゃるのです。
 ははー、なるほど、パトロールですね。ごくろーさんです。
 わたくし、ドアを開けて外に出ました。
 そこで、「このあたりで怪しい者を見かけませんでしたか?」と聞かれると思ったのですよ、てっきり。
 そして、「わたしが見たところ、怪しいものは見ませんでしたよ。しいて言えば、わたしがいちばん怪しいかな、わっはっは」・・・とオヤジギャグをカマす予定でいたのですよ。


 ああ、それなのに、警察の方は「あなた、いま、なにをしていましたか?」なんてことおっしゃるんです。
 でででで、それって、もしかして、疑われているざんす、アタシ?
 「わ、わたくし、写真撮ってましたけど」
 「ええ、撮ってましたね。車がお好きなんですか?」

 でー。車の写真なんて撮ってなーい。
 「そ、空の写真撮ってたんですよ、ほら、さっき白い月が出ていて、えっとえっと」
 そしたら、「ほほー、いいカメラですねえ」と、こんどは助手席側から声が。


 こちらは五十がらみの古強者デカ。 ぎょー。いつのまにハサミうちに。ヒキョーだぞー。顔はニコニコしているけれど、目が怖ーい。
 「高いんでしょうねえ、そのカメラ」と、まっすぐこちらを見て世間話なんぞしてくるのであります。
 「い、いや、中古ですから、安いんですよ。ネットで買ったんです、ええ、ネットでね。ヤフオフ」
 わ、わたくし、ハッキリ言って、人の目を見て話するのが苦手であります。人と目が合うと、ついついそらしてしまうのであります。けっして嘘ついているわけじゃなく、ただ、苦手なだけです、はい。



 でも、そんなことを知らない警察の人。

 ああ、きっとこの二人、わたしがウソをついていると思っているにちがいない。だって、さっきから目が泳いでいるんだもの、ボク。


 まっすぐ見ていようと思っているんだけど、どうしても目があちこちいっちゃって、じっとしてろじっとしてろと思えば思うほど、泳いじゃって、ああああ、バカー、オレの目。


 「よければ免許証を見せてくれませんか?」と若いほうの刑事さんがおっしゃる。
 ここで「よくないです」なんてこと言ったらメンドウなことになるだろうし、やはり善良な市民を強調して「は、はい、どうぞ。ゴールド免許です。いやー、ボクってマジメだから」ってアピールして渡したのですが、ほめてもくれず、淡々と名前と住所をメモするだけで、はい。
 あ、そうだ。わたくしこういうものです、モノカキです。ほら、つい最近マジメなNHKにも出たんですよと、名刺を渡したのですが、「あ、じゃあ、もらっときます」というだけで、潔白の証明にはならなかったみたいで、それどころか指紋の採取に使われるだけだったりして。ぎょー。
 車に後ろのガラスに貼られている「拳」ステッカーを見て、「なんですか、これ?」と興味をしめした古強者デカ。


 「あ、は、はい、わ、わたくしですね、社団法人新潟県テコンドー協会の会長しておりまして、はい、会長って真面目な人がやる会長です、はい。でも、テコンドーより、警察の逮捕術のほうが強いですね、は、はははは」なんてゴマすってしまって、ボクのバカバカバカー。
 「あー、はいはい」

 って、マジに聞いてないし。聞きながしているしー。

 

 「そ、そうだ、警察関係者のお子さんも習ってますよ。そう、Yさん、Yさんの娘さんも習っておりまして、はい、知ってます? 知ってますぅYさんのことー?」
 「えっと、知らんです」

がーん。


 「そ、そうっすねえ、何万人もいるんでしょうからねえ、うん、知らんですねえ、は、ははは」
 「で、そのカメラは動画も撮れるんですか?」

 

 ど、どーしてそんなこと聞くのよ? 知りませんわよ、わたし。中古で買ったばかりですもの。十年前のオリンパスですもの。
 「わたしもほしいんですよねえ、一眼レフ」
 か、買えばー。ほしいなら、買えばー。公務員はボーナス出たんだろー。買えばー。オレなんてボーナス出てないんだぞーと言いたいのをぐっと堪え


 「は、ははは、なかなかいいですよ。あ、ほら、さっき撮ってた画像です。空撮ってたんです、空。白い月がさっきまでいて、ほら、雲ばっかりで」と、ああ、必死にわたしがしゃべってるのに聞いてないしー。


 とにかく、目が泳いじゃうのがいけないのだ。だから、なにを言っても疑われるのだ。ここはじっと相手の目を見て・・・いやん、また逸らしちゃったあ、えーん。






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