サンタクロースのきた証拠



 おとうさん、あのね、ユウちゃんはね、まだちっちゃいからサンタさんがいるってことを知らないの。だからね、夜になってもなかなか寝ないんだよ。


 でも、しょうがないね。あたしだって、一歳のころはサンタさんがいること知らなかったもの。



 ユウちゃん、はやく寝ようね。今夜はクリスマスイブなんだから。ほら、お布団をしっかりかけなくっちゃダメよ。




 おとうさん、あたしね、サンタさんにお手紙書いたのよ。

ユウちゃんにも、プレゼントあげてくださいねって。赤ちゃんだからまだお利口じゃないけれど、オネショもするけど、ご機嫌がわるいと泣いちゃうけれど、でも、ほんとはイイコなんだから、プレゼントあげてくださいねって書いたの。



 もし、ユウちゃんがプレゼントもらえないなら、かわいそうだから、あたしもいりませんって書いたよ。そのときは、おとうさんがプレゼント買ってね。



 ユウちゃんはね、機関車のオモチャが欲しいんだよ。テレビで機関車が出てくると嬉しそうに笑うの。ねーっ、ユウちゃん。あれ、ユウちゃん、寝たの?



 おかあさんはまだベッドにこれないのかなあ。片づけものが、まだまだいっぱいあるのかなあ。あたしも手伝いたいんだけど、もう寝なくちゃだめだよね。


 あのね、おとうさん、ナイショだよ。

 いま急に思い出しちゃった。あたしね、去年のクリスマスにね、サンタさんを見たのよ。サンタさんがね、あたしの頭をなでてくれたの。そしてね、ホッペにキスしたのよ。でもね、あたしね、目を開けなかった。サンタさんがビックリするとわるいから。サンタさんがあたしから離れていって、ドアの開く音を聞いてから、そっと目をあけたの。そのときサンタさんの背中が見えたわ。でも、どんな姿だったのかわかんないの。だって、ドアの向こうはとてもまぶしかったんだもの。



 ねえ、おとうさん。おかあさんのこと、スキ? 

 そう、よかった。あたしもスキ。ユウちゃんもスキ。

 もちろんおとうさんもスキよ。じゃあね。おやすみなさい。





 いつしか娘は、寝息をたてた。

 その夜、サンタクロースは娘の願いを聞いて、二人の枕元にプレゼントを置いていった。
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 そんなピュアな娘も、小学校の高学年になると「サンタさんって、ホントにいるの?」と聞くようになった。そのたびにわたしは「うん、いるよ」と答えたのだが、娘はどこか疑っているようだった。わが子に限らず、子どもたちは成長するにつれ、サンタを信じなくなる。信じているのは、子どもっぽくて恥ずかしいことだと思うらしい。
 そして娘はさらに成長し、ついにはサンタをすっかり信じなくなった。すると、クリスマスの朝がきても、その枕元には、もうプレゼントは届かない。信じない人のところにサンタはやってこないのだ。しかたないから娘には「お父サンタ」と「お母サンタ」から直接プレゼントを渡したのだけれど・・・。
 サンタは、子どもたちの喜ぶ顔が好き。「すごいよ。見て見て!」と、はしゃぐ声が好き。サンタのプレゼントに歓喜する子どもの姿は、サンタがくれた大人へのプレゼントだと思う。クリスマスの朝に感じる幸せな気持ち。それがサンタの「来ていた」証拠。
 今はサンタを信じない娘だけれど、いつかまた信じる日がくるだろう。サンタクロースは本当にいるんだねって、あのころのように思うだろう。


 今夜はクリスマス・イブ。皆さんもお幸せに。メリー・クリスマス!





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