わたしなら、あきらめてしまったかもしれない

 妙高市の新井高校グランドで行われた「新潟県ポンプ操法競技会」にいってきました。
 
 さすが各地の予選を勝ち抜いてきたチームばかり。あの暑い中でも、きびきびした節度をもって競技が進められました。
 


 その中でも、ひとつ印象に残ったチームのことを書かせてください。
 
 それは、新潟市江南区から出場したS分団のことです。
 
 彼らがいままでナミナミならぬ努力をしていたことは知っています。いや、わたしの知る以上の努力であったということも想像に難くありません。


 準備の段階から、予選大会以上のオーラが出ています。

いい感じの緊張。気合が入っています。この日のために、これまでがんばってきた彼ら。
 
 彼らの競技が始まりました。

 指揮者の「操作はじめ!」の号令のあと、3番員の「よし!」から時間計測開始です。
 
 声援が一段と高くなります。「がんばれー!」「いけー!」としぼるような声が聞こえます。
 
 しかし、開始してすぐに

 「あ! どうした?」とみんなが思いました。

 
 1番員の止まる位置がいつもより先にいっている? 県大会に進むチームに出てくるミスではあるまい? わたしたちは戸惑いました。


 するとだれかが言いました。
 
 「ベルトが落ちてるぞ」と。
 展開した一番ホースの最後のほうに、オレンジ色のベルトが落ちていました。
 それがなんなのか、はじめは理解できませんでした。
 
 「バックルが壊れたんだ」と思いました。
 ごく希にズボンのベルトのバックルが壊れ、ベルトが外れてしまうことがあります。
 じっさいなかなか想定できないアクシデントです。長いこと操法大会の指導に関わってきたわたしでさえも、練習中に一度だけしか遭遇していません。
 
 しかし、どんなに想定しにくいアクシデントであろうと、それはもう1番員のミス。競技の最中に出てしまっては大減点です。そんなミスに動転し、1番員は止まる位置を誤ってしまったのでしょう。
 


 それでも競技は淡々と進みます。
 火は消えたとみなされ、各番員は最初の位置に戻るよう指示が出ました。
 


 1番員も走って戻ってきます。


 1番員は、自分の落としたオレンジのベルトをどうするか? と思いました。


 もう競技の順位としては致命的な減点。これ以上順位の落ちることのないところまで落ちていることでしょう。


 わたしなら、そのまま拾わず戻ったかもしれません。早く終わらせてしまいたいと、とっくに競技をあきらめていたかもしれません。

 「もうダメだ、みんなゴメン」と声に出し、そのあとのことは放棄してしまったかもしれません。
 
 
 しかし、彼はあきらめませんでした。自分の落としたベルトを、筒先を背負った不自由な体勢で膝をつき、左手で拾いました。
 
 そして、みんなよりも遅れて集合線につき、壊れたバックルを指でこじ開け、震える手でベルトを腰に通しはじめました。ふだんなら3秒ほどでできることを、ブルブル震える手では、なかなかベルトが穴を通ってくれません。
 
 みんな、静かに見ています。


 やっとベルトが通り、一番員が姿勢を正したところで、それを見守っていた指揮者が沈黙を破ります。


「点検報告!」
 
 それに対し、
「1番員、異常なし!」

 と大きな声が響き
 
「2番員、異常なし!」

「3番員、異常なし!」
と続きました。 


 
 彼らの大会は、ちょっとつらい結果とともに終わりました。
 
 でも、わたしよりもずっと年下の彼らに、わたしはとてもたいせつなことを教わったと思いました。「よくがんばった。ありがとう」と伝えたいです。
 

uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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