トロ:消えてしまいそうシリーズ

はい、消えてしまいそうシリーズが続きます。今回はトロのネタです。
 
 
題して「トロ」
 
「さあさあ。今日は大奮発してトロですよ」

「中トロじゃないぞ、大トロだぞ。みんなも心して食べるように」

「めったに食べられないんだからね。今日はおとうさんにお仕事のお金が振りこまれておめでたいのよ」

「トロ食べるの六年ぶりなんだぞ、おとうさんは。会社辞めて以来苦節八年。やっとトロを買えました」

「すごい贅沢よね、おとうさん」

「うんうん、おかあさん、苦労をかけたねえ。さあさあみんなも食べろ」

「ボクねトロ好きー。でも、トロってなーに?」

「へー。これがトロっていうの。ヘンなの。なんだかお刺し身みたい」

「お刺し身なんだよ」

「よその人に聞かせられない会話だわ」

「あ、おばあちゃんが醤油こぼした」

「ボクねー、麦茶ほしーよー」

「トロってトロトロしてるみたいなヘンな名前。あたしブリのほうが好き」

「ブリブリブリッ!」

「うるさいねえまったく」

「ボクねー、大きくなったらおとうさんみたいになるの」

「あらヤだ」

「なんだよお」

「ボクねー、毎日家にいて子供と遊ぶの」

「あのねえ、おとうさんは遊んでいるんじゃないの。お仕事なの」

「あ、おじいちゃんコップ酒四杯目。ダメだよ、飲みすぎだよ」

「はい、おばあちゃん、ワサビですよ」

「ボクねー、きょう学校でケンカしたの」

「あらあら誰と?」

「わすれた」

「あ、たいへん。傷ができてるよ」

「ほっとけほっとけ」

「わー。あたしトロきらーい。やっぱりトロトロしてて気持ち悪ーい。あたし納豆食べるからおとうさんにトロあげる」

「そうかそうか、納豆なら冷蔵庫にあるよ」

「あー。お姉ちゃんがスキキライしたのに、どーして今日はおとうさん怒らないの?」「トロは嫌いでもいいの」

「じゃ、ボクも納豆食べる。はい、おかあさんにトロあげる」

「ありがとう」

「ばかだねえ。天下のトロさまを嫌っちゃうなんて」

「ボク、オシッコー」

「こらこら、行儀が悪い」

「誰に似たのだか」

「親の顔が見たいわ」

「なんでオレの顔を見るんだよ」

「あたし、今日の数学のテストたぶん百点」

「あらー。頑張ったわね」

「ほらほら、親の顔見てくれ」

「おかわり」

「ボクもー。納豆好きー」
 
みなが揃うだけで幸せな食卓。

 
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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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