生まれてきてくれて嬉しいよ:消えそうシリーズ
ご存じ、消えてしまいそうシリーズ。
「生まれてきてくれて嬉しいよ」
息子の生まれた日、娘はたいへん喜んだ。
目も開いてない赤ん坊に向かって「お姉ちゃんだよ、こんにちは」と、なんどもなんども話しかけていた。
目も開いてない赤ん坊に向かって「お姉ちゃんだよ、こんにちは」と、なんどもなんども話しかけていた。
しかし、弟ができるというのは、それまで娘にだけ注がれていた親の愛情や手間ひまが分散されてしまうというわけだ。
親の腕のなかは自分だけの指定席だったはずなのに、それからは弟に占領される時間がやけに長くなる。
こちらも気をつけてはいたつもりだけれど、それでも娘には辛い思いをさせたことだろう。
本人は「弟がいるってことは、我慢しなくっちゃいけないってことだ」と納得している様子ではあったけれど、それでもときどき爆発し、
「ユウちゃんのバカ。いじわる。大きらい!」と、いままで我慢してきたものを吐きだすように、泣くことがあった。
でも、ほんとに嫌いかといえば、もちろんそんなことはないのであって、泣きながらまた弟のそばに戻り、
「ユウちゃん、ごめんね。お姉ちゃんはね、ユウちゃんが生まれてきてくれて嬉しいんだよ。ユウちゃんはいじわるじゃないよ。バカなんかじゃないよ。まだ一人じゃなんにもできないだけだもの。赤ちゃんだもの。ユウちゃんが生まれてきて、お姉ちゃんは嬉しいよ、ほんとだよ」と言いながら、ホッペをくっつけているのだ。
ご機嫌で姉の耳をひっぱっている弟だって、生まれたときからお姉ちゃんがいて、とっても嬉しかったにちがいない。
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