墜つ

 
 涙なぞ出ないと思っていたのです。

血がつながっているわけでもないですし。でもだめですね。
いろんなこと思い出しちゃって。
 
 
 今日の朝8時半「すぐにきてください」と電話をもらいました。義父が危ないと。
 
 昨夜見舞いにいったときは意識はしっかりとしていて

「つらくないですか?」というわたしの問いに「だいじょうぶ」と首を振りました。
 そして、わたしの手を握ってなにか言いたげでしたけれど、
その言葉は聞こえませんでした。
 
 「また明日きますからね」と言って部屋を出ました。


 あさってが誕生日。あさってになれば81歳。新聞のお悔やみ欄を見て80すぎた人の名前を見つけると「そうか、大往生だな」と思っていたのですが、身内になるとダメですね。どんなに齢とっていても、やっぱり亡くなるのはせつないです。
 


 後ろの座席で声を出さずに泣いているらしい娘。

わたしは運転に集中していましたが、涙だけツーっとなんども落ちました。
 それがバックミラーに写って娘に悟られないよう、なにも言わずにいました。
 
 朝の混雑時。病院に着いたのは9時をすぎていました。

 走って部屋にいったのですが、義父は、すでに旅だっておりました。
 
 目を真っ赤にした妻に「間にあったのか?」と聞きましたら「ううん」と首を横に振りました。
 
 妻は職場から病院にいったのです。
 今日は監査があるからいかなくっちゃと、文字通り後ろ髪を引かれていった妻。数分遅れで父の死に目に会えなかったのです。もうちょっと待ってくれていてもいいのにお義父さん。
 
 今日から妻は、父のいない子になりました。

かわいそうでかわいそうでなりません。
 
 

uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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