前夜の携帯電話

  あれからかなり過ぎましたので、忘れないよう書いておきますね。
 
*********  
 
 妻がメールを読んだのは、一旦自宅に戻ってから。

それが1月27日でした。
 
 メールは入院している義父につきそう義母(妻の母)からでした。
 
 
 発信時刻は4時ごろ。
その時点で、妻のケータはロッカーの中で充電切れになっていたようです。
 
 
 「職場にいるときに見ていたら、帰り道に病院廻ってきたのになあ」と言った妻。
 
 「明日の帰りに寄るわ」と言ったのですけれど・・・やっぱりどうも気になって。
 
 せっかくだから三人でいこうか。いや、息子のアパートまでいって、四人でいこうか。と、急にそう決まりました。


 

 病室での義父はいつもより呼吸が荒かったのですが、意識はいままで以上にはっきりしていました。
 
 「苦しくないですか?」 と声をかけると、言葉に出しませんが「苦しくない」と首をふって答えてくれました。そして、布団から手を出してくれたので、その手を握りました。細かったですが、あたたかでした。
 
 病室には一時間ほどいましたでしょうか。

面会時間は気にしなくていいという許可が出ていました。好きなときにきて好きなだけいていいですよということでした。


 義母が今夜は泊まるという話だったので、わたしたちはいったん帰ることにしました。危険な状態ではあるけれど、すぐにどうなるというふうでもありませんでしたし。


 娘が、「おじいちゃん、また明日くるよ」と言うと手を握ってくれました。義父の口が動いているのですが、声が出ていないのでなにを言っているのかわからないのがもどかしかったです。
 
 最後に息子が義父の顔を覗き「またきます」と言うと、義父は両手を出して息子の手を握りました。


 その夜、義父はたくさん手を握り、そして翌朝早く逝きました。
 


 妻がケータイにメールの入っていることに気づき、職場からの帰り道にひとりで病院によってきたのなら、最後の夜の義父の顔を見ることができなかったわたしたち。
 
 その朝充電していのに、夕方には充電切れになってメールの読めない状態になっていたケータイに感謝です。

 
 

uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

0コメント

  • 1000 / 1000