ありがとうが言えなかった

 
 
 
 
 
 
ありがとうが言えなかった。         
だって、いま「ありがとう」って言ったら、

もうそれが最後のお別れになりそうで、

だから言えなかった。
たくさん感謝しているのだけれど、言えなかった。

 

でも、言えなかったけれど、ありがとうって思っていた。
いっぱいいっぱい思っていた。


 でも、今日言えた。
 ベッドの上で、わたしの名前をいっぱい書いてくれた。
 声が出なくなったから、紙に書いて呼んでくれたんだね、お父さん?
 おとうさん、強いね。がんばってるね。

お父さんは、ずっと強かったもんね。わたしの誇りだよ。自慢のお父さんだよ。
 ありがとう。


 あ、お父さん、いまわたしの名前を呼んだでしょ?
 いま口がそう動いたからわかったよ。
 お父さん、ありがとう。

わたしのお父さんでありがとう。
 
 

uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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