ほほよせて

娘は、病気だった妻が命がけで生みました。


娘も命がけで生まれました。予定日よりもずいぶん早くこの世に出てくることになったので、とってもちいさな赤ちゃんでしたが、それでも元気でした。


寝ている娘の手を触ろうと、そーっと人さし指を近づけたら、娘がギュッとわたしの指を握りました。ビックリしました。でも、うれしかったです。わたしのことを信頼しているからちいさな手で握ってくれたのかなって思ってうれしかった

です。

 
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「ほほよせて」


次の日、キミはおかあさんの横で眠っていました。

保育器のお世話になったのは一日だけ。元気でなによりです。

キミはまん丸い顔をしていました。ちょっとしわくちゃなところもあったけれど、とてもかわいかったですよ。


 「抱いてみる?」とおかあさんに言われ「うん」と受けとったのはいいけれど、キミのあまりの軽さに、おとうさんは戸惑いました。


 だいじなキミを落とさぬように力を入れて、でも、壊さぬように力を抜いて…
 
 もう、どうやって抱いたらいいのかわからなくなって、「だめだよ、怖い」と言って、おかあさんの横に戻しました。


 それを見ておかあさんはクスッと笑いました。


 いままでは、あんなに子どもっぽいおかあさんだったのに、キミを産んだら急にオトナになったみたいです。一歩先に親になられてしまった感じ。それがちょっと悔しかった。
 


  でも、幸せな悔しさでした。

 
 おとうさんの幸せ、みんなキミにあげる。

キミがずっと幸せでありますように。


 この世に生まれたことを喜べますように。

キミが生まれてきてくれて、おとうさんはほんとうにうれしかったのです。


  この命と交換しても、キミを守りたいと思いましたよ。

キミのホホにホホよせて、おとうさんは言いました。おかあさんには聞こえないよう、ちいさな声で、言いました。
 


 おとうさんとおかあさんがこの世からいなくなるときも、キミがそばにいてくれますように。
 


 いまみたいに、ホホよせて、そばにいてくれますように。

ぜったいに、おとうさんとおかあさんより先にいなくなったらダメだよと、キミに言いました。
 
************** (たいせつなあなたへから「ほほよせて」)
 
 

uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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