笑うな

わシリーズ
●笑うな
 
○月△日
 
 死んでしまった友人の家にご焼香。

わたしの知らないうちに、病んでいた。黙ってやがってコノヤロウ。
 
 車が彼の家に近づくにつれ、だんだんとせつなくなった。
 だから一人でいくのはイヤなんだ。
 大勢ならば、途中まで賑やかにバカ話をしていられるじゃないか。
 
 酒の苦手な彼のためにコーラが一本。かーんと鐘を鳴らすわたしを見ているのは、さわやかに笑った写真の中の彼。
 
 ここらで泣いたら絵になるんだぜと思ったけれど、そのステキな笑顔のせいで、涙がぜんぜん出てこない。
 
 じいっと彼の写真を見つめたけれど、それでも涙は出なかった。

 いい写真だな。いつもこの笑顔に騙されてしまうんだな。
 
 でも、アンタ。幼い家族を残して死んじゃったんだよ。笑っている場合じゃないだろう。お参りにきた人をさわやかにしている場合じゃないだろう。
 
 奥さんのところにいき、挨拶をしようとすわり直し、すぅっと息を吸い

「このたびは・・・」と、しかし、それきり言葉が出なかった。
 
 かわりに涙が出た。いったん出たら、止らなくなった。
 ずっとうつむいていたら、彼の可愛がっていたネコがきた。

 上目使いでこちらを見ている。そこに彼の視線を感じた。
 だからいってやった。
 


 「笑うな」って。


 「こんなときくらい、泣かせてろ、バカヤロウ」って。
 
 
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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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