願い

わシリーズ
 
 
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「願い」
 
 なんと切ないお願いだろうと思いました。

 以前、新聞で読んだお話です。親に虐待されて死んでいった幼い女の子が、保育園の七夕で短冊に書いてもらった願いごと。


 そこには、「お母さんに抱っこしてもらいたい」と書かれていました。


 お母さんには毎日怒鳴られてばかりいたけれど、それでもその子はお母さんのことが大好きで、怒られるのは自分が悪い子だからと信じて疑わず「ゴメンナサイ。いい子になるからゴメンナサイ」と謝っていたのでした。


 その子の気持ちを思うと、わたしはせつなくて、苦しくて、泣きそうになります。


 子どもって、なんて簡単なことを願うのでしょう。
 子どもは親のことが大好きで、親が自分の親でいてくれるだけでうれしいのです。その親に愛してもらいたいという、そんなささやかな、そんなアタリマエの願いを叶えてやらない親であっても、その子にとってはとてもたいせつな親であったのですね。そう思うと、それがまたせつなくて。
 
 娘が保育園に入る年、わたしはとつぜんの病に倒れて入院しました。二週間の間に三度の手術。ちょっと危なかったときもありましたけれど、おかげさまでなんとか生き延びました。


 体の回りにくっついていたたくさんのコードと管を外してもらい、ベッドから降りて立ったわたしのそばを「おとーさん♪ おとーさん♪」と、歌うようにスキップしていた娘の姿が忘れられません。


 愛おしくてうれしくて、痩せ細った腕で娘を抱くと「うふふ。おヒゲがいたいよお」と笑っていました。娘をギューっと抱っこしながら「子どもって、親の抱っこで、たいていの辛いことは忘れてくれるんだな」と思いました。


 わたしがそばにいるだけで、娘はとてもうれしそうでした。そして、その笑顔を見るわたしも、とてもとてもしあわせでした。


 生きよう生きよう、できるだけ長くこの子といて、思い出をたくさん作ろうと誓ったのでした。

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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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