田中副方面隊長
もう何年前になるかな。
新潟市が広域合併した最初の年の、江南消防団春の演習のことだ。
消防団の部長会が主催で操法のデモをやっているときに、田中副方面隊長が「進行が遅れている。もう少し早くできないか?」とわたしに聞いてきた。当時わたしが部長会の会長をしていたからだ。
わたしは即座に「できません」と答えた。
選手たちがいっしょうけんめいにやっているのに、それをもう少し早くとはどういうことだと思ったのは事実。それに、遅れているのは我々の不手際ではなく、時間配分を読めなかった署の責任である。だから、手を抜いてまで早く終わらせてはいけないと思った。
それで、愛想笑いをするわけでもなく、いや、かなり不機嫌な顔で「できません!」と言ったように思う。
田中副方面隊長は「よし、わかった」と、それ以上なにも言わずにわたしのそばを離れた。
そして、わたしの直属の長であった人に「藤田にわるいことをした。謝っておいてくれ」と言ったと、あとできいた。
しかし、田中副方面隊長は、なにもわるいことはしていない。
外で長いこと演習につきあっている来賓の方々や一般市民の疲労を考えての忠告だった。ただわたしが意地っ張りだっただけ。
命令ならば必ず従う。
しかし、あの日は「できないか?」と問われたか正直な気持ちとして「できません!」と答えたのだ。その答えはまちがっていないといまでも思う。
その後、なんども田中副方面隊長と飲んだ。かわいがっていただいた。
ある夜、聞かれた。
「なあ、藤田くん。オレがあのときアンタの『できません』の返事に怒って『命令だ。断じてやれ!』と言ったら、アンタどうした?」と。
わたしは「命令なら、従います」と答えた。
「従うか?」
「はい。従います。しかし、従いますが、田中副方面隊長を尊敬することは、なかったと思います」
それを聞くと
田中副方面隊長は、「わははは。そうだろう。オレの判断はよかったろう。わははは」と楽しげに笑った。
田中副方面隊長は、「わははは。そうだろう。オレの判断はよかったろう。わははは」と楽しげに笑った。
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今夜、田中副方面隊長とお別れしてくる。そして、明日、最後の敬礼で送る。
しかし田中副方面隊長。
この別れは、断じて早すぎます・・・
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