サヨナラ、オヤナギ

昨夜、オヤナギのおとうさんに会った。
オヤナギの話になった。
もうすぐ三周忌。
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「サヨナラ、オヤナギ」
 先日は義理の父を送ってきたのだが、今日は消防団を通じた友人である小柳部長を送ることになった。わたしよりも10歳年下ではあったが、頼りになるいい男だった。
 急な報せを聞いて、文字通り耳を疑った。
「わるい冗談じゃないんでしょうね」と、電話で教えてくれた分団長に言ってしまった。
 でも、電話の向こうからは、

 「小柳が、亡くなった」

とくり返されるだけだった。
 たしかに半年前に脳出血で具合がわるかった。しかし、あれは発見が早くてちゃんと治って退院しただろうに。


 実際の死因は、あのときの病気とはちがって感染性のものだった。まさかそんなことで死ぬなんて、オヤナギ、さぞかし悔しかろう。死ぬ気なんて、これっぽっちもなかったろうに。
 涙ばっかりのお通夜。

オヤナギの仲間たちが泣いていた。

通夜振舞いでオレはなにを食べたんだろう。悲しくて、なにも覚えていない。
 
 告別式で

「ありがとうね」と泣きながら棺に花を入れるおかあさん。


そして、

「また会おうね」

「待っててね」

「あちらでは元気でね」と、最後のお別れで、棺から離れられないおかあさん。


「バレンタインのチョコレート、会社の人がくれたんだよ。よかったね」と、彼の顔をなでながら泣き続けるおかあさん。


 それをじっと見ていたおとうさん。
 
 ダメだよなあ、親より先にいっちまうのはイカンよなあ、オヤナギ。


 親孝行息子だったのに、最後に親不孝しちまったなあ。
 でも、オマエだって死にたくなかったんだよなあ。
 
 「小柳部長に 敬礼!」


 方面隊長の大きな号令に合わせ、我ら消防団員はいっせいに敬礼し、彼を見送った。
 棺の中には、彼がいつも着ていた消防団の制服も入っている。ありがとうオヤナギ。
 
 敬礼のまま、じっと彼の乗った車を目で追った。
 まばたきはしない。

しちゃったら、とめどもなく涙が落ちる。

 

 サヨナラ、オヤナギ。


 ありがとう、オヤナギ。


 *************オレたち消防団!より
これを読みながら、涙が出た。もちろん自分の文章に感激しているわけじゃない。オヤナギを思い出して、泣けた。いい奴だったが、ときどきドジするので何度か怒った。それでも憎めないヤツだった。旅行の本を書くために、いっしょに佐渡にいった。佐渡汽船観光の社員だったオヤナギ。佐渡でも人気者だった。 

uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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