大きな長靴
わシリーズエッセイ
わシリーズとは、「忘れさられてこの世から消えてしまいそうなエッセイ救済シリーズ」の略でございます。
「大きな長靴」
先日の雪の日に、わたしはちょっとばかり熱を出してしまいました。その日は無理して仕事を続けたのですが、翌日になりましたら体がだるくてしかたありません。
しかし、わたしの体調にはおかまいなしで、雪はどんどん積っていきます。このままでは車庫から車が出せません。しょうがない、もうひとがんばりしなければいけないなと思っていたのですが、そんな具合のわるいわたしに代わって、妻が車庫の雪除けをすると言い出しました。
力仕事なんてやったことのない人ですから、「だいじょうぶだよ、オレがやるよ」と止めました。でも、彼女は「自分でやってみる」って言ってききません。
力仕事なんてやったことのない人ですから、「だいじょうぶだよ、オレがやるよ」と止めました。でも、彼女は「自分でやってみる」って言ってききません。
じゃあまあ、できるところまでやってもらおうかと、わたしは温かい部屋の中から、窓の向こうでがんばる妻の仕事ぶりを見ていました。
スノーダンプとちっちゃなスコップで、ちょっとずつちょっとずつ雪をかき、なんどもなんども道路を往復して、わたしの何倍も時間がかかりましたが、ついには車庫の前の雪がなくなっていました。
妻のところにいって、「すごいね、よくがんばったね」と言いましたら、「えへへ」と少し得意そうです。「このあたりがちょっと苦労したの」なんて言いながら、ちいさなスコップを持って凍った雪のかまたりのところまでトコトコ歩いていって、説明してくれました。
妻はわたしの長靴をはいていました。
ちいさな彼女にとって、それはとっても大きな長靴で、重たくてたいへんだったと思います。
妻はわたしの長靴をはいていました。
ちいさな彼女にとって、それはとっても大きな長靴で、重たくてたいへんだったと思います。
でも、わが家にはその長靴しかなくて、彼女も、雪かきするときはこれをはくものだと思っていたのでしょう。
大きな長靴をはいた妻の姿は、ちいさな女の子がオトナの靴をはいているみたいにかわいく見えました。
でも、彼女は自分の姿に気づきません。その長靴をはいた姿を、わたしがかわいいと思ったなんて知りません。
「お疲れさま。あったかいコーヒーを飲もうか」と言いましたら、妻は「うん」と言いました。
****************「たいせつなあなたへ」から
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