卒業
わシリーズ:いま22歳の息子が中学校を卒業するときに書いたエッセイです。
卒業
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気持ちよく晴れた青い空。
その日、息子が通っていた中学校の卒業式に、妻とともに参列した。
式を厳かに終えたあと、卒業生と在校生で「巣立ちの歌」を爽やかに歌い、最後は卒業生だけで「旅立ちの日に」を合唱した。
歌っている子どもたちの顔を見ながら、私は昔のことを思い出していた。
みんな赤ちゃんだったのに。
手をつないでいないと歩けない甘えん坊だったのに。
抱っこされるのが大好きで、いつも私たちの腕のなかでスヤスヤ眠ってくれたのに。
それが、こんなに大きくなって、立派になって。
君たちが私たちのそばにいてくれただけで、私たちはなによりもうれしかったのだよと、そんなことを思って聴いていた。
歌が半ばをすぎると、女の子たちの顔が泣き顔になっていた。
今まで我慢していたのだけれど、もう堪えきれなくなっていた。
男の子たちも、いつものシラケた顔じゃなくなっていた。
がんばってるがんばってる。
みんなこの歌を歌いきろうとがんばっている。
この歌がみんなでうたう最後の歌だ。
この歌が終わったら、みんなは大空に飛び立っていく。
パチパチパチパチ。
大きな大きな拍手の中、それまで背をむけていた指揮者の女の子がゆっくりと振りむいた。
その顔は涙。顔じゅうに涙。止まらない涙。
がんばった、みんながんばった。みんながんばって生きてきた。
パチパチパチパチ。
涙も拭かずに拍手するみんな。
先生も保護者も在校生も、みんなが君たちに拍手した。
卒業おめでとうと拍手した。
そう、卒業はけっして悲しいことじゃない。
どこか別の世界に消えてしまうわけじゃない。
ひとりひとりが夢を抱いて空に飛び立つお祝いの日なのだ。
おめでとうおめでとう。
あなたたちに巡りあえて、本当によかった。おめでとう。
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