爺ちゃんと銀行、そしてヨレヨレの封筒

 爺ちゃんが銀行に連れていってくれとオレに言った。



 お盆に帰ってくる孫に小遣いをやりたいようだ。年金、貯まっているのだろう。





 爺ちゃんにはほかに移動の手段がないわけだし、しょうがないので車に乗せて銀行まで送っていった。



 しかし、どーもイヤなんだよなあ、あの雰囲気。



 いや、銀行自体は好きなんだけど、爺さんと行くと、なんだかオレオレ詐欺の犯人がトシヨリだまして金をおろさせている図みたいでさ。銀行員の視線がオレにドドッと注がれているような気分。はい、自意識過剰なんだけど。





 オレもわるいことしているわけじゃないんだし、堂々としていればいいのに、やけに「ボク、この人の息子ですから」的に振舞っているようで、その姿がなんか自分でも不自然な気がする。



 「自然に自然に」と思えば思うほど怪しくなっているみたいだし。ああ、親子なのに親子みたいにするのって難しいなあ。



 とりあえず爺ちゃんが出金の紙に名前と金額を書き入れたのを確認し、爺ちゃんの手を引いて窓口に行った。



 そして、「お願いします」と渡すと、窓口のおねえさんは笑顔で「はい、少々お待ちください」と受けとってくれたので、「ほっ!」と安心して椅子に腰かけたわけ。



 しかし、しばらくすると、奥から人がやってきて、通帳と出金の紙を見ながらなにか喋っているし。



 そして、ときどきこっち見ているみたいだった。

 あ、目が合ったのに、思わず逸らした。



 いかん、これではまるでわるいことしているみたいじゃないか。

 堂々としなくっちゃ、堂々と。



 その直後に名前を呼ばれた。「藤田様~!」と。



 「あー、はいはい」と言ってオレは窓口に行った。「もう、逮捕でもなんでもしてくれぃ。みんなオレがわるいんだあ。やってなくても白状するぜ」的敗北感。どうせ免許証見せろっていうんでしょ。身元確認させろって、はいはい。



 「藤田様、申しわけありませんが・・・」

 「だ、だめですか? 爺ちゃんが孫に小遣いをやりたいって・・・」

 「あ、はい。これ、印鑑がちがいますので」

 「だから、えっと、・・・え?」

 「この印鑑ではなく、こちらのほうの印鑑をお持ちでしょうか?」



 と、見せてくれたものと爺ちゃんの持ってきたハンコはぜんぜんちがうし。爺ちゃん、まちがって実印を持ってきたようだし。



 とりあえずオレが疑われているわけじゃないようなのでホッとして爺ちゃん連れて家に戻った。そして通帳の正しいハンコを持ってもう一回。こんどは無事に下ろすことができた。





 ***********。





 今日の朝、爺ちゃんがヨボヨボしながらヨレヨレの封筒を持ってやってきた。息子にやる小遣いが入っているんだなとわかった。しかし、息子はまだ起きてはいない。



 爺ちゃんに「まだ寝ているよ」と伝えた。



 そしたら爺ちゃんは「これ、いつでもいいから渡してくれ」と言ってオレに封筒をよこした。



 しかし、どっから見つけてきたんだろう、このヨレヨレの封筒。

 じいちゃんは、これが人にやれないくらいのヨレヨレ具合だってことはわかってないんだろうな。そう思ったら、ちょっとかわいそうになった。



 それでも、爺ちゃんなりの精いっぱいの封筒だ。



 「爺ちゃん、あとで渡せばいいよ。爺ちゃんが渡したほうが喜ばれるよ」と言って、また爺ちゃんの手に戻した。



 爺ちゃん、ちょっと寂しそうな顔して受けとって、部屋に戻ろうとした。



 なんか一声かけなくっちゃと思って

 「爺ちゃん、孫に小遣いやるのもいいけど、息子に小遣やるのもいいもんだよ」と言ってやったけど、一瞬立ちどまった後、華麗にスルー。



 なにごともなかったように歩いていった。




uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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