ほら、咲いているね

 キンモクセイがとても早く咲いたのは、今年の夏が暑すぎたせいだろうか。



 でも、どんなに早く咲いたって、もしみんな散ってしまったって、10月8日になれば、またオレンジの小さな花を咲かせてくれるのがキンモクセイ。毎年のことだから、学習した。



 いまは大好きな花だけど、あの日まで、気にもとめていなかったキンモクセイ。



 あの日の夜は、妻への輸血のために集まってくれた仲間たちと、病院の隣の中華食堂でメシ食っていた。幸い妻は、血をもらう前に容体が安定したのであるが。





 妻が死なないでよかった。

 娘が元気に生まれてよかった。

 メシ食いながら、静かに泣けた。



 そんなわたしの涙には気づかぬふりして、仲間たちはテレビの方を観ていた。



 そしてしばらくして「よし、オレたちはそろそろ帰るぞ」と、わたしを残して出ていった。「がんばれよ、新米オヤジ」なんて言いながら。



 わたしは仲間たちを「ありがとう」と見送った。



 自分一人じゃ守りきれないものがある。誰かがいてくれるから、守れるものがある。





 一人になって落ちついて、さて病室に戻ろうと、席を立った。



 ドアを開けたらキンモクセイ・・・薫ってきた。



 その日から、娘の誕生日にはいつもキンモクセイが咲いている。




uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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