だって もっちゃん 字が読めない

 時間を戻したい。

 あのときに戻ってやり直したいと思う場面が数多くある。



 子どもを理不尽に怒ってしまったとき、あの悲しい顔を思い出す。





 今も心に出てくるのは、娘がまだ保育園に入る前の場面。



 娘が絵本を「読んで読んでー♪」とわたしのところに持ってきた。

 しかしわたしは絵本を読んでいる気持ちの余裕がない。心がだいぶ乱れている状態だった。



 「あとでね」と断っても、娘は「読んで読んでー」とあきらめない。



 カンシャクを起してわたしは



 「自分で読め!」と怒鳴ってしまった。



 すると娘は

 「だって、もっちゃん、字が読めないー」と言って、本を持ったまま泣いてしまった。



 その声を聞いて、ハッと我に返った。

 守るべきものを守ろうとしない自分が情けなかった。



 「そうだよな。ごめんな。もっちゃんは字がまだ読めないもんな。ごめんなごめんな」と謝りながら膝の上に娘を載せて絵本を読んだ。娘はすぐにわたしを許し、ニコニコ笑顔で絵本を見ていた。





 しかし、娘が許してくれてもわたしは自分を許さない。

 読めないことを承知で「自分で読め」と言ってしまった自分をずっと許さないし、これからも許されなくていい。



 一生忘れてはいけない出来事と思っている。







 

uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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