静かな朝

 ディサービスのある朝。



 父はいつも少し早めに玄関に腰かけ、迎えの車を待っている。



 「きたら呼ぶから部屋にいていいよ」というのだが、待たせてはいけないという性分なのか、すぐにいけるよう、寒くても暑くても、玄関に腰かけ父は車の到着を待つ。





 その父の見えるところに、水槽がある。

 父は座って見ている。



 静かに時間がすぎていく。

 

 毎朝、わたしは霧吹きで、水槽の中に水を吹きつけている。



 いつもはそれを黙って見ている父なのだが・・・今日は唐突に言葉を発した。

 



 「それ、いつ鳴くんだ?」と。



 黙ってはいても、水槽の存在は気になっていた。



 父はスズムシの鳴きはじめを待っていたのだ。





 しかし・・・









 「これ、鳴かないよ。カタツムリだから」



 「・・・ 」



 「粟島のカタツムリだよ」



 「・・・うん」





 また静かになった。





 家の前に車が止まった。





 「おはよーございまーす」と元気な声で、車から女性の職員さんが降りてきた。

 「今日もよろしくお願いします」

 「はーい」



 いつもの挨拶のあと、父を無事、車に乗せた。







 そして、また静かになった。




uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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