賢者の時間


朝食後、ゴミ捨てにいくのがオレの役目だ。




でも「そんなもんは家事を手伝っているとは言わん、ただのゴミの運搬じゃないか」という声が聞こえてきそうだが、たしかにそうだ。面倒な分別の部分は妻がやってくれている。




オレのミッションは、家からゴミステーションまでの往復1分半ほどの移動でしかない。それでも、ご婦人がたが外に出るには、やはりそれなりの準備が必要らしいので、朝の忙しいときにゴミを運ぶという行為を妻は喜んでくれている。




 


今朝もいつものように新潟市指定の黄色い袋を持って家を出ようとしたときに、玄関で微かな予感。


 


「うーん、トイレいってからにしようかな」と思ったが、もう靴を履いちゃったのにまた家の中に戻るもの面倒だし、往復1分半なら耐えられるし。



しかし、こんなことを書いているからにはご想像どおりの事態になるわけで。






微かだった便意の信号は、家をスタートして10秒後には一気に「危険」を知らせる最後通牒に変わった。しかしそれもまたよくあることだ。適度な足の運動が大腸を刺激し蠕動運動を活発にさせる。それくらいはわたしも長年のウ○コ経験から理解している。だから想定内である。1分半で漏らすほどオレの肛門括約筋もヤワじゃない。


 


しかしだ、しかししかし、こういうときには得てして神は苦難を与えてくださるのだな。あ、ちなみにうちは浄土真宗だけど。


 


ちらっと脳裏に浮かんだ不安。いや、大丈夫だ、まさかそんな。神はそこまでいじわるじゃないだろう。神はその人が乗りこえられる苦難しか与えないのだ、うんうん。浄土真宗のオレでもそんなことは何百回も聞いているのでよくわかる。


 


とりあえずは行ける。不自然ではあるが肛門括約筋に力を入れたまま走れば大丈夫だ。見た目はちょっと微妙な欽ちゃん走り。スキップスキップランランラン♪ 


 


ああしかし「やっぱ、こうなるんだろうな」と脳裏に浮かんだ不安が的中だっふんだ。


 


ゴミステーションに到着したら、向こうから「あーら、いっちょちゃん!」とわたしに声をかけてきたオババさまがいるわけだ。オレの同級生のお母さんHさん。


 


ちなみに「いっちょちゃん」というのは「イチオ」と「ちゃん」の連音であり、いわゆるフランス語でいうリエゾンである。うちの町内は戦前はフランス領だったので、そんな名残りがあるのかもしれない(ないわ!)。


 


いや、だから、そんなことはどうでもいいわけで、こっちは1分半でミッション完了して速やかにコトをいたす予定であるのに、推定年齢86歳のオババさまがゴミステーションにいるという不安要素。


 


しかも、シルバーカーに大きなゴミを載せているという不安要素。


 


オレも心を鬼にして「おっはよーございます! ではではー!」と自分のゴミだけを捨てて戻れたらよかったのだが、オババさまの「このゴミ、重たいのよねー。ゴミステーションに入れるの、疲れるのよねー、いっちょちゃん・・・」と訴えている視線にオレは耐えられなかった。


 


「はいはいはい、いっしょに捨てちゃいますよー」とシルバーカーからゴミ袋を取りゴミステーションに投げこんで、ソッコーでその場を立ち去ろうとした瞬間にだ。



「いっちょちゃんはいくつになったん?」なんて聞いてくる。

どりゃー、ここでオレのトシを聞いてアンタどーすんの。来年の節分の豆でもくれる都合ですかい。それともバースディケーキのロウソクでも寄付してくれるってんですかい。


 


「58ですよ!」


「あら、うちの息子と一緒だね」

 


だ、だからね、昔から同級生ですのよ、アンタの息子と。 


 


ああ、すでに想定した1分半が過ぎている。

もうダメ、バアチャンゴメン、オレはすぐに家に戻らなければいけません。


 


後ろでバアチャンがなにか言ってるようだが、聞こえないふりしてオレは欽ちゃん走りで家に向かった。もはや世間話していられるような状況じゃない。


 




その後はなんの問題もなく家に到着した。あずきが「おとーさーん」という目でオレを見ているのでスルーできずに駆けよって、「いいこいいこ」とアゴを撫でトイレに直行だ。


 


ほっ。




そんなわけで、今日のブログの前半部はビロウであるから、食事の最中や直前には読まないほうがいいかも。

 


しっかし、ウ○コって出てしまうとほんとにアッサリしているのだなあと思った。

さっきまであんなに燃えあがっていたのに、完了したその数秒後には、もう何事もなかったような静寂。



朝から世界の人たちの平和と繁栄を祈りたくなる気分になる。

「ああ、神様。世界の人々が幸せでありますように」と、浄土真宗だけど神に祈ってみたりする、ステキな賢者の時間。

 




uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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