「わ」シリーズ 「コンタクトレンズ」


 いまは昔・・・子どもたちがまだ幼かった頃のお話です。



 


 それはわたしが一人で朝飯を食べていたときでした。

 いえ、ふだんは妻や子どもたちといっしょに食べるんですけれど、その日は朝から町内会の集まりがあって一仕事してきたあとだったと思います。

 

 一人黙々とご飯を食べ、味噌汁を口にした途端に聞こえた絶叫。




 


 「コンタクトレンズ落としたー!」と、妻が洗面台の前で叫んでいるのでございます。



 当時は今よりかなり高価だったコンタクトレンズ。

 それをなくしてしまったら、わが家のビンボウにますます加速がついてしまうじゃありませんか。


 


 ワタクシ、ご飯を中断して洗面台付近に行き、はいつくばって探しました。



 その間に、うちの幼い姉弟はごテレビを観ながらケンカをはじめ、オネーチャンが叩いただのユーキがバカだからだのと騒ぎはじめ、その泣き声が後頭部方面よりサラウンドで聞こえてくるのであります。



 ああああ、しかしそんなこにかまっているヒマはございません。なんたってレンズの代金4万円(当時)がかかっているのでございます。




 


 「ええい、オマエたちウルサイ。ケンカはあとでしろー!」と、わたし。



 「あーん、もう時間がないってのにい!」と、自分のせいなのに怒っている妻。






 泣き叫ぶ子供たちの声と妻の怒りの声を聞きながら、わたしはセッセと探し回ったのであります。






 そして探すこと4分と10数秒後。



 とうとつに「あーっ!」と、叫ぶ妻です。






 「ど、どうした」あまりの大声に驚きながらも、それでも黙々と床を探すわたし。




 「え、えっとねー!」



 「なに?」と、じれったくなり顔をあげたその先に

 


 「え、えっとね、コンタクトレンズ・・・まだつけてなかったあ!」と、メガネを持ちながら愛想笑いをする妻がいました。






 ちゃんちゃん♪



 _終わり_





uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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