トンデモとーさん

 三日前の朝、いつものように父の寝ているところにいって「朝ご飯だよ」と伝えた。



 父は「うん」と返事をした。



 しかし、10分待ったが、こなかった。



 また迎えに行って「ご飯だよ」伝えた。



 父は「うん」と返事した。



 それから10分たったが、まだ父はこない。



 みたび寝室に行って「ご飯だよ!」とちょっと大きな声で言った。



 それが父の癇に触ったらしく「グズグズ言わんでも自分で盛って食うから黙ってろ」的な返事をしてきた。



 それで、ちょっとばかりプチッと来たわたし。

 「じゃあ、一生自分で盛ってろ」と伝えた。「家族っていいなあ」なんていう連載をしていたエッセイストも、実態はこんなものだ。



  

 その後、父はその言葉どおり自分でご飯を盛り、冷めた味噌汁と冷蔵庫から見つけたオカズを電子レンジで温めて食べた。



 プチっときながらも、こっそりとそのあたりの確認はしている。万が一、火でも使われたら困るから。



 安全に自分でできるのならば、こちらが手出しをするのは本人のためにはならないわけだから、少々不安であるが好きにしてもらおうと思った。





 翌朝、父は自分で冷蔵庫を漁り、電子レンジでオカズを温めた。



 しかし、電子レンジで温めたオカズは「漬物」だった。タクアンとキュウリと生姜の味噌漬けを、丸のまま電子レンジで温めていたのだ。



 漬物は時間設定をしないで温めると焦げるのだな。

 部屋の中が、独特の香りに包まれていた。しかし、もしかしたらうまいのかもしれない。父は残さず食べていたから。塩分量が少々心配であるが、毎回でなければいっか。



 その次の日の朝は、こんどはアンコを温めていた。

 婆さまが餅と一緒に食べるために煮ておいたアンコを、電子レンジで温めてご飯のオカズにして食べていた。オハギだと思えばそれもよかろう。



 そして今朝、ご飯の時間になって父が冷蔵庫を漁っていたのを、わたしはさりげなく見ていた。



 父は、パックに入った豚ロースの薄切りを見つけ、それを電子レンジに入れ・・・る直前に「これはダメだろ!」と回収した。



 さすがに、豚の生肉は食わせられん。





 父は、やはりボケている。食べものを識別する力がないらしい。



 父のご飯は、また家族が用意することにしよう。





 




uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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