恐竜のタマゴ
わたしの車の助手席にはじめて乗った人は、たいてい「これはなにですか?」と聞いてくる。
わたしは「恐竜のタマゴです」と答える。
恐竜の卵は、助手席の足もとにコロリコロリと、かれこれ十三年前から揺れている。
四歳の息子を連れてキャンプにいったとき、道ばたで見つけた丸い石だ。
「ふむふむ、これは大発見。恐竜の卵の化石をみつけたぞ。ティラノザウルスの香りがするもんな」と石を手に持ちくんくん匂いをかいで言ったら、息子もいっしょになって鼻を近づけ「くんくんくん」とやって、「わあ、これがティラノザウルスの香りなんだ。すっごいの見つけたねお父さん!」と喜んだ。
それ以来ずっと車に載っている。
「ふむふむ、これは大発見。恐竜の卵の化石をみつけたぞ。ティラノザウルスの香りがするもんな」と石を手に持ちくんくん匂いをかいで言ったら、息子もいっしょになって鼻を近づけ「くんくんくん」とやって、「わあ、これがティラノザウルスの香りなんだ。すっごいの見つけたねお父さん!」と喜んだ。
それ以来ずっと車に載っている。
あのころの私は、世界一のモノ知りであり世界一の魔法使いであり世界一力持ちだった。
そして無敵で不死身でテレビに出てくるどんなヒーローたちよりもカッコよかった。不可能のない男だった。
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