恋のエッセイ

 「家族っていいなあパート3」には載せない恋のエッセイ。


いつか日の目を見ることがありますように。

以前アメカゴ日記に載せたけれど、そのブログ版を読んでください。




「バイオレット・フィズ」
 デートではじめて飲んだカクテルが、バイオレット・フィズ。
 メニューの文字を見て、カッコつけて頼んだ。バイオレットって単語が、単純にカッコイイと思った。バカな学生。
 大学の三年生のとき、一学年上の先輩のことが好きになった。


 小柄でおとなしくて優しい人だった。大学に通いながら劇団にも所属している女優の卵だった。東京の恵比寿のアパートにいた。
 はじめてのデートは、池袋のどこかの劇場だった。野沢那智主催の「真夏の世の夢」。中味はぜんぜん覚えていないけれど。左隣に彼女がいたことだけ覚えている。
 そこは彼女の指定した場所だった。彼女の友だちもカップルでいて、その日はグループデートだった。二人ともよその大学四年生。三年生は自分だけ。ひとり浮いていたような気がした。
 はじめっからダメになることが前提のような付き合いだった。わたしは好きだけれど、彼女は好きになってくれない。
 やさしい彼女は、わたしが誘えば、いつもデートにつきあってくれた。わたしの誘いを、わたしを傷つけずに断わる理由を見つけられなくてだ、きっと。

 彼女はわたしを好きではない。嫌いじゃないけれど、愛せない。そんな感じだ。
 会う約束の日は、いつも朝からゆううつだった。好きなのに、会いたいのに、会うのがゆううつだった。

 それでも、いつか好きになってくれるかもしれない・・・そう思って会っていた。


 最後のデートで、酒を飲んだ。

 彼女は一滴も飲めない人だったので、わたしだけ頼んだバイオレットフィズ。
 こんなキレイな色とは思わなかった。
「どうしてもダメなんだね?」と、わたしは声をしぼって、聞いた。
 彼女は「ごめんなさい」と答えてくれた。
 わたしを傷つけぬよう、精いっぱいの優しい答えだった。



uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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