ストレプトマイシン

 母は、若いころに結核を病んだそうである。


 当時はまだ「死に至る病」と恐れられていた。

 ちょうどそんなとき、結核の特効薬ストレプトマイシンができたのだそうだ。


 ただし、正規ルートではお医者さんでも手に入れることができず、法外な値段の闇ルートで一本ずつ買って打たねばならなかったらしい。家が傾くくらいの金額だと聞いていた。

 それでも、母の父親は「うちの財産全部はたいても治してやる」と言って、迷わず注射を打ってもらっていたそうだ。母の実家は金持ちではない。さして大きくもない農家だ。田んぼを全部手放しても治るまで注射を買うことに決めた。


 お医者さんも驚く効果でストレプトマイシンが効いて、全財産をはたく前に母は治った。


 ちょっとしたタイミングなんだなあ。そのとき、ストレプトマイシンがなければ、たぶん母は死んでいた。そしたらわたしもいなかった。

 

 そうやって受け継がれた命。大切にしなくっちゃと思う。




uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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