白いヘンタイを公開

 ああ、五年前は黒い服を着ていったおかげで、顔色がヤケに不健康で輪郭がかなり犯罪者っぽく、どうしたって前科だらけの怖いオジサンの顔であったのね。


 それから苦節五年。

銀行にいって、子どもの授業料を送金するたびに、「身分を確認できるものを」と言われ、その免許証を見せなければいけない悲しさと言ったら。しかも、それがコピーにとられる苦しさといったらもうもうもー、牛になっちゃいますわよ、ぼく。



そう、苦節五年。やっとこれでマトモになれる。やっと真人間になれる。そうやって待ちに待った免許の書きかえ。顔色が善良に見えるよう、白い開襟シャツを着ていってきました。


 平日の更新ですから比較的空いてます。滞りなく手続は進み、そして目の検査も無事に終わり、さて次は本日のメインエベントである写真撮影でーす。ああ、今日生まれる天使のぼく!


 名前を呼ばれるまで、皆さん気合が入っているのがアリアリ。わたしの前に座るオバサマは、今朝ほどパーマにいってきましたのよ、おほほほほってな感じの頭髪で座っていて、しきりに頭を触ってる。本人の気合のわりに、どうみても昭和のサザエさんに見えてしまうのだけれど、そんなこと他人のオバサンには指摘できない、ぼくオトナだし。


 ああ、皆さん、続々と写真の部屋に入っていきます。


 そしてとうとうわたしの番がきました。名前を呼ばれ、今世紀最大の元気な声で「はいっ!」と言いました。ええ、やればできる子なんです、ぼく。


 五年間、待ちに待ったこのとき、ああ、ついにきたのだ、このときがあ・・・とドアの前でむせび泣こうとしたら、係の女性が「はい、椅子に背中つけて座ってくださーい」なんて言うので、感慨に浸っている時間もなかったのよ。


 少しくらい世間話をしましょうよぅ。ぼくの苦しかった五年間の話を聞いてくださいよう。銀行でね、振り込みするとね・・・あ、聞いてないしー、おーい


 「はい、レンズ見て、目をそらさないでー!」って

まだ心の準備もできないうちに言ってくれるしー。


 「え、レンズってどこよどこよ、あ、これか、これがレンズか。こんないちっちゃいのか。よーし、うそだったら承知しないよ。逸らさない逸らさない、よーしよーし、いい顔しなくっちゃ、よーしよーし」と思っているうちに「パチャ」とシャッターが押されてしまった。個人的にはいい顔度7割5分という予感。


 

 そのあと、優良講習というのを30分受けるんだけど、みなさん、講習の内容よりもきっとどんな顔になって免許証ができてくるだろうかって、そっちのほうが心配にちがいないと思うのよー、そうよそうよ、きっとそうよ。


 「じゃあ、名前呼びまーす。古い免許証と交換になります」


 ええ、古い免許証なぞに未練はないぜー。こんな犯罪者顔の免許証なんぞノシつけてくれてやるー。もう、そんな心境だったんです、あのときは。



 最後の最後にわたしの名前が呼ばれ、すでに教室の中にはだれもいなくなっていて。


 わたしの犯罪顔免許証がめでたく公安に渡され、天使の微笑みの新免許証が手に入り・・・


 チラと見たら、「ん?」


 あれれ、これ、ぼくじゃないしー。


 ぼく、こんなヘンタイ顔じゃないしー。


 だれかの免許証とまちがったかな。でもー、住所同じだしー。


 そうか、写真だけ入れ替わったかな。


 でもー、同じ服きているしー。


 あ、あれー??(゜Q。)??











uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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