期間限定サービス:これがバンジーだ

 いつ消すかわからないサービス企画 
 
 
某所で発表され、そのまま絶版で消えるかもしれないエッセイシリーズ
 
 
その1
「これがバンジーだ」
 
 ふっふっふ、不敵に笑う藤田うににん、バンジージャンプに初挑戦してきたのだ。場所は群馬県の某所。お値段なんと三千円。自由落下するだけなのに、ちと高すぎではないかと思ったが、いろいろな都合があるのだろう。
 
値段は許すが、券を買ってからバンジーの受付までかなりの急勾配を登っていかなければならないということは許しがたい。登るだけで、かなり体力を消耗してしまう。
 
 ゼイゼイいって受付にいくと「誓約書」というのを書かされる。息が切れていてメマイがするために、文字が認識できない。きっと、「万が一ヒモが切れて死んでもワシャ文句いわんもんね」という内容なんだろうと、読みもせずそのままサインした。
 
 そのあと体重測定(体重により、ゴムの種類を変えるらしい)。女性係員がわたしの体に装具をつけてくれた。股と腰のあたりをバッテン印にして、落ちたときの衝撃が一ヶ所に集まらないようになっている素晴らしい仕組みらしい。
 
 しかし、なんとこの装具、わたくしの最大の急所、つまり股間にひっかかっているのだ。このままじゃイカン、このまま飛んだらつぶれる、地獄を見ると判断したわたしは、締め付けられた不自由なカッコウのままパンツに手を突っこみ、人目を避けながら位置修正をしたのである。なんといっても、モノがモノだけになかなか苦労したけれど、どうにかヒモが食いこまない場所まで移動できた。
 
 さて、受付から飛び降りる場所まで、さらに階段をのぼっていかなければならない。ここでまた息が切れる。高い場所にあるから、高山病になって死ぬ人も大勢いる(うそ)。
 
 階段は網目状になっていて下がよく見える。きっとわたしのことを心配して、わが息子は泣いているのだろうと思って眺めると、やつめ、地面にお絵描きをして遊んでいた。
 
 やっと最上階にたどり着き、手すりにつかまってゼイゼイと息を整えていたら、係のお兄さんが跳びかたの説明をしてくれた。


 巨大なすりこ木みたいなウレタンの棒を装具につけ(マジックテープで二ヶ所だけ)、まず爪先の半分が外に出る場所まで移動する、そのあと両手をあげる、「1.2.3.バンジー」の掛け声とともに頭から前に倒れるという段取りだ。
 
 手に持った体重のカードを基準に飛ぶ順番が決められ、四人中四番目がわたしの順番(つまりビリ)であった。ま、最後のほうがみなさんの飛ぶ姿を眺めることができて楽しいかもしれない。
 
 わたしの前は若い女性だった。自分の順番になるまではけっこう元気だったけれど、いざ前に進むと怖くなったようだ。
係「ではいいですか、1.2.3.バンジー! ・・・あら、飛んでませんねー」

 「あ、わたしちょっと怖いみたいなー・・・」

係「だいじょうぶですよ。1.2.3.ハイ! バンジー! あらー」

 「わたしチョット怖いみたいなー」

係「怖いのは落ちる瞬間だけですからだいじょうぶです」←少しイラついている

 「でも、わたしちょっと怖いみたいなー」

係「『みたい』なんじゃなくって、怖いんです!」←ヤケになっている。

 「わたし、ちょっと怖いみたいなー」

係「はい、両手を高くあげてー」

 「わたし、ちょっと怖いみたいなー」
 
 「おいテメー、いまさらジタバタするんじゃねーよ。ここにきてすることといっちゃ、ひとつしかねーだろうが。オメーも承知してきたんだろ。いまさらイヤとはいわせねーぜ、へっへっへ。生娘じゃあるまいし、手間をとらせるんじゃねーよオラオラオラ」
 係員の表情はそう言っていた(たぶん)。
 
 後ろで見ていたわたしは、「『ちょっと怖いみたい』と泣きそうな声を出しているんだから、もう許してやっちゃもらえませんかい旦那さん」という気分だったけれど、そんなことを口に出したりしたら、係員の機嫌を損ねロープに切り込みを入れらるかもしれないので黙っていた。ここでは総理大臣よりも係のお兄さんのほうが偉いのだ。
 
 「怖いみたいなー」のお姉さんが無事に落ちたあと、次はその彼氏とおぼしき男だった
係「はい爪先を出してー」


 「あ」
 なにが「あ」だコノヤロー。女性には同情するけれども、オトコ相手には極端に冷血なわたしは「だいじょうぶですよ。彼女も飛んだんだから」と声をかけて両肩をおして落してあげた。。
 
 
 さて、いよいよわたしの番。
 係のお兄さんがウレタンのすりこ木をつけてくれます。マジックテープを二ヶ所簡単にビリッと貼りつけてくれた。
 
 係「はい、そのまま前に出てくださーい」
 下を見たら、息子があいかわらず無心にお絵描きをしていて、わたしのほうをぜんぜん見ようとしていない。。
 「あのー、そのマイクはいっていますか?」

係「はい、入っていますよ」

 「一言しゃべらせてください」

係「はいどうぞ」

 「おーいみんなー、お父さん飛ぶからねー!」
 やっと息子も注目してくれた。
係「今日は御家族連れで?」

 「はい」

係「あー、あそこの赤い服を着ているのがお嬢さんですか」

 「んー、よく見えませんけどたぶんそうです」

係「じゃ、お父さん頑張ってください」

 「はい」

係「それではそのまま前に出てください」

 「はーい」
 
 一歩前に出て
 
 「あ」
 やっぱ怖い。さっきのすりこ木はだいじょうぶなんだろうかと思ってしまう。高さの恐怖もさることながら、装備にたいする不安が大きい。マジックテープで二ヶ所止めただけでだいじょうぶなのだろうか、せめて電気溶接くらいしてもらわないと不安だ。
 
係「はい、両手を高くあげてくださーい」
 お前に言われる筋あいはないと思いながら両手をあげた。
 
係「はい、まっすぐ上にあがりましたね」
 ほ、褒めてくれんでもいいわい。
 
係「ではいきます。1.2.3・・・」
 うわうわうわーと心の中で叫んでいるわたし。
 
係「はいバンジー!」
 
 ようするに、まっすぐ前に倒れればいいのじゃいいのじゃいいのじゃいいのじゃいいのじゃー! あ、倒れる倒れる倒れる倒れる、倒れた倒れた倒れた倒れたー、足が離れた離れた離れた離れた、死んだ死んだ死んだ死んだー。
 
 ビニョーン。

 
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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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