限定エッセイ:カワニナを探しに

 例によって、消えてしまいそうなエッセイシリーズ。
 
 
 
「カワニナを探しに」
 
 六月の、とある日曜日の朝

 「蛍のいるところにはカワニナがいるんだぞ」とうんちくを垂れ、息子とふたり自転車に乗って田んぼの用水にカワニナを探しにいった。
 ちなみにカワニナとは、ダイエットに成功した細身のタニシみたいな巻き貝。
 二人で水の少なくなった用水に入り探索すると、、、いたいた。

石の上にくっついて、ミノムシみたいになって水の流れに揺れていた。
 それをつまんで、息子の手のひらに載せてやり

 「ほら、これがカワニナだ。こいつは水のきれいなところにしか棲めない貝なんだ。だから、家の近くにこれがいるってことは、ちょっとステキなことなんだぞ」と教えた。
 息子はじっと手のうえのカワニナを見ていた。
 その日の午後は、少々疲れてベッドで昼寝をしていた。

 いつのまにか息子もそばにきていたらしい。

 ウトウトしているところに横でモゾモゾ動いている。
 「おとうさん、おとうさん。ちょっと見てちょうだい」という声で起こされた。

 「ボクね、カワニナになったんだよ」と、毛布を細長く体全体に巻きつけて、ちょこんとちいさな頭だけとびだして、ニコニコと息子はベッドの上で揺れていた。

 たしかにカワニナに見えないこともない。よくそんなことが思いつくねえと感心する。
 大人のわたしにはそういう発想ができづらくなっているのだが、息子と過ごすことにより、心のストライクゾーンが広げられる。
 しばらくして、わが家のカワニナも疲れていたらしく、静かになって寝息をたてはじめた。
 その顔を見ながら「うちの水は、きれいだろうか」と思ったりする。


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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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