昨夜染めたので、こういうのも紹介してみようかと

わ:シリーズ
妻の長い髪
昨日、髪を染めました。
 
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 「そろそろ目立ってきたようだね」と私が言うと、「あら、そう?」と妻は新聞を読んでいた顔をあげ、頭に手をやった。よく晴れた休みの日の朝だった。


 妻の髪に白いものが出てくると、私はちょっとせつない気持ちになってくる。私が苦労かけているためかと思ってしまう。いや、実際にその何割かは、私のイケナイ所行のせいなんだろうけど。


 妻にはいつまでも若くいてもらいたい。


 その日の午後に二人で薬局にいき、オシャレ染めを買ってきた。

 染めるのは私の役目。何度もやっているので慣れたものだ。正座した妻の後ろに回り、ゆっくりと髪をといていく。肩の下まである長い髪。付属のブラシで塗っていけばいいのだが、慣れないうちは、髪についた液がはねて私の腕や服にくっついた。するとたちまち茶色く染まってしまうのだ。だから、ゆっくりゆっくり飛ばさぬように、チューブの中身がなくなるまで丁寧に塗っていく。塗り終わったあとは、しっかりと染め液が髪に馴染むよう、二十分間じっとして待つ。


 時計を見て「時間だね」と私が言うと、「はい」と答えた妻は、ゆっくりと立ちあがり風呂場に向かった。


 髪を洗って出てくるまでは、どんな染まり具合になっているのか塗った私にもわからない。結果が出るまで、なんともドキドキ。へんな染まりかただったらどうしようと、じつは心配している。万が一のときは、知りあいの美容室にいって速攻で染め直してもらうつもりなのだが、幸いなことにまだ失敗はない。


 うん、今回もうまくいった。洗面所の鏡の前に立つ妻の髪は、とてもオシャレに輝いている。


 その後ろに私はまわり「まあ、こんなもんだね」と言いながら、妻の長い髪に指をからませていた。

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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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