「熱い運動会」

わシリーズ
 
今日の講演会で、前任で娘の高校にいたという先生が「このとき、グラウンドにいました」と言っていたエッセイ。同じ時間を共有していた。
 
「熱い運動会」7/2
 
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 妻と一緒に、娘の高校生活最後の運動会にいってきた。子どもたちの心は今年も熱く燃えていた。


 どこが優勝するのかわからない白熱した状況で競技は進み、最後のリレーが始まった。各チームとも、これに負ければ優勝も逃してしまうという大緊張のスタートだった。


 そのリレーで、あるチームの女の子が、受けとるバトンを落したのだ。

 一瞬、グランドから声援が消えた。絶望!
 
 もし、自分のためだけに走っていたなら、彼女はそれで競技をやめていたかもしれない。だけど、その先に仲間が待っている。あきらめない。彼女はバトンを拾って懸命に走った。彼女の後ろを声援が追いかけた。けれど、結果は、負けだった。


 泣きじゃくって動けない彼女のもとにチームメイトが駆けよった。その肩に手を載せ、ねぎらった。「いいんだよ。最後までがんばったんだ。みんな、喜んでいるよ。だから泣かないでね」と。


 その子が応援席の前に到着し、全員の前に「ゴメン」と頭を下げたとき、待っていたみんなは、いっせいに立ちあがった。そして、大きな声で彼女にエールを贈った。その熱さは、見ている親たちにも伝わった。涙の似合いそうもない中年男性が、ハンカチで目をこすっていた。いや、その人だけじゃない。あちらにもこちらにも目をうるませている大人たちがいた。


 別のチームからもエールが沸き起こった。キレイ事で言うわけじゃない。この子たちは、心の底から仲間をねぎらい、そして賛えることができる人になっていたのだ。


 「君が生まれてきてくれて良かったよ。君がわが子で嬉しいよ」と、そこにいた親の多くが思ったことだろう。


 表彰式のときに、校長先生が、バトンを落して勝利を逃したチームに「特別賞」を贈った。それを、全校生徒が熱い拍手で祝福した。

(家族っていいなあPart1より)
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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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