トラクターに乗って

わシリーズ
 
「トラクターに乗って」
 
 
**********************
 
 父が脳梗塞で倒れてからは、畑をトラクターで耕すのはわたしの仕事となりました。


 ここでちょっと自慢させてもらいますと、わたしは大型特殊自動車の運転免許と作業免許を持っているのです。つまり、ブルドーザーやショベルカーなどなど工事現場で大活躍のマシンを操る資格があるのです。


 そんなわたしですから、わが家のちっちゃな農耕用トラクターなんてお茶の子さいさい屁のカッパ。わたしの手にかかれば、荒れた大地も鏡のように真っ平らに耕され、「あら、ステキ。藤田さんったらエッセーも書けるし畑も耕せるのね」と農家の若い奥様がたから称賛のアメアラ・・・のはずだったのです。


 しかし現実は厳しく、わたしが耕したあとはまったくもって凸凹で、鏡どころかまるで荒れる冬の日本海。聞けば、少々旧型とはいえ、コンピューター制御のトラクターで、ここまで凸凹に耕すことは至難の業ということでした。


 それを見て農家のオヤジさんたちが一様に「すごいすごい。どうやったらこんなに波打たせられるのだろう」と感心してくれましたもの。


 「あーあ、うまくいかないなあ」と、地面に腰をおろし凸凹の畑をぼんやり眺めていましたら、近所の先輩が「まさかとは思うけど」とトラクターを調べてくれました。


 すると、まさにその「まさか」だったのです。なんと、姿勢制御を受け持つワイヤーが上下逆になってくっついていたのです。本来ならば凸凹した地面を平らにするため、高いところでは低く、低いところでは高く耕すはずなのに、それが正反対についていて、耕すたびに高いところはより高く、低いところはより低くなり、その結果畑は波打つようになっていたのでありました。


 ちなみに、ワイヤーを逆さにつけたのはわたしの仕業。はじめてトラクターに乗るとき、なにげなしにあちこちいじっていたらワイヤーがとれてしまい、それを戻すときにまちがって反対に取り付けてしまったのですね。


 文明の利器も、こんなところに意外な弱点があるのだなあと思ったら、ちょっとかわいく思えたのでした。
 
*****************
 

uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

0コメント

  • 1000 / 1000