犬の時間

 車をガレージに入れて玄関に向かって歩いていたら、
「わんわんわん」と家の中から愛犬ハチの鳴き声。
 
 縁側からわたしのほうを見て吠えている。
 
 シッポがとれそうなくらいバタバタ回して、
「わー、おとうさんだおとうさんだあ」と吠えている。
 
 
 ほんの数時間会ってなかっただけなのにね。
 でも、しょうがない。
 
 犬の時間は人の時間とくらべてとても短いんだもの。
会えるうちに、いっぱい会っていたいんだもの。
 
15年いっしょにいるハチ。
残り時間は、もう多くはない。
 
 
 
「おとうさんおとうさんおとうさん」とシッポを振るハチ。
 
わたしは「ハチハチハチ」と言って体をなでる。
 
 
 ハチは満足そうに、おとなしくなる。
なにも贅沢は言わない。ただ、わたしがそばにいればうれしい。
 
 ハチ。いてくれてありがとう。
おとうさんに出会ってくれてありがとう。 
 
 オマエがこの世からいなくなるときは、
 お願いだから、おとうさんがそばにいるときにするんだよ。
 
 けっして黙っていなくなったらいけないよ。
おとうさんの手の温もりを感じながら、いくんだよ。
 
 
ハチは、わかったんだかわかってないんだか、
 
ぱたぱたとシッポを振る。
 

uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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