聞きたくない言葉
わシリーズ 3年前のエッセイです
「聞きたくない言葉」
もう何年も前のことです。いま23歳の娘が、まだ中学生のときでしたから。
その日の夕方、娘と妻が口喧嘩をしていました。ケンカといっても、興奮しているのは娘一人で、妻は「ふんふん」と聞き流しています。よくある光景。わたしと息子は腹ばいにならんで呑気に夕刊を読みながら、ケンカが終わるのを待っていました。
その日の夕方、娘と妻が口喧嘩をしていました。ケンカといっても、興奮しているのは娘一人で、妻は「ふんふん」と聞き流しています。よくある光景。わたしと息子は腹ばいにならんで呑気に夕刊を読みながら、ケンカが終わるのを待っていました。
でも、その日は娘の興奮がいつまでもおさまらず、しまいには「おかあさんのわからずや! そんな親だと、わたしは自殺しちゃうかもしれないよ!」と、大声で言ったのでした。
・・・・・
それまで呑気にしていたわたしでしたが、その言葉で一瞬にしてキレてしまいました。新聞を踏みつけ立ちあがり、「バカヤロウ!」と娘のホホを思いっきり叩いたのでした。娘は、部屋のすみっこまでとんでいきました。
「そんな脅し文句、オマエはどこで覚えた! 自殺するような娘なら、お父さんの手でたったいま殺してやるからそこに座れっ!」と叫んでいました。
わたしの剣幕に、娘は頬をおさえて「ごめんなさいごめんなさい」と泣くばかりです。
そこでやっとわたしは正気に戻り「殺してやる」だなんて、自分の使ったひどい言葉を後悔しました。
「いや、いまは詫びなくていい。いまのオマエは、ホホの痛みで謝っているだけかもしれない。自分がどんなにひどいことを言ったのか、わかりもせずに謝っているだけかもしれない。自殺って言葉は、がんばって生きて生き抜いて、生きたくて生きたくて、それでも堪えきれなくなった人が言えばいい。いまのオマエが使っていい言葉なんかじゃない。おとうさんは、オマエからそんな言葉を一生聞きたくない。・・・殴ってわるかった。お父さんもひどい言葉を使ってしまった。ゴメン」
そのあとも「ごめんなさいごめんなさい」と、いつまでも泣いている娘がかわいそうでした。
親ですもの。いざとなれば子どもたちがかけてくる迷惑なんてものは、なんだって受けとめるつもりです。
そう、そのたったひとつのこと、以外なら・・・
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