娘の無駄遣い:わシリーズ
娘が中学生のときのエッセイかな。
「無駄遣い」
うちの娘は金銭に関しては刹那主義なのだ。小遣いは、もらったそばからすぐ使いきり、財布のなかに百円以上のお金が入っていることは稀。なければないで平気らしい。父に似たのだと妻はいうが、当たっているから反論できん。
その娘が、六月のある日、神妙な顔をしながらわたしの部屋に入ってきた。
「おとうさん、これを千円で買ってくれないかな?」
なにかと見れば、それは娘がゲーム大会で一等賞をとってもらったキャラクターものの傷絆創膏セットである。買えばいくらもしないものだろうが、擦り傷を作ってもけっして使わず に大切にとっておいた宝物の絆創膏だ。
それを手放してなにを買う気だと聞くが、おとうさんには教えられないという。じゃあダメだと、わたしも買いとりを拒否するのだが、お願いだから千円で買ってよと娘は執拗に食い下がってくる。
「お願いお願い、おかあさんにはぜったいにダメって断わられたの」と、なんども手を擦り合わせるからかわいそうになってきた。
「だいたいオマエは無駄遣がすぎる!」と、自分のことは棚にあげ、ちょっとばかり説教して財布から千円札を一枚だした。
「ありがとー」と、娘は部屋からでていった。宝物を質に入れてまで欲しいものとはなんだろうと思ったけれど、どうせくだらないものなんだろうし、それきり忘れてしまっていた。
数日たって日曜日、「おとうさんありがとう」と、娘はわたしにリボンのついた包みをくれた。開けたらそれはTシャツだった。父の日のプレゼント。
「それ、千円だったんだよ」と、マヌケな弟は値段をバラして怒られた。
わたしはどんな理由をつけて、娘からとった質草を返そうかと悩まなければならなくなった。父の日は、子供たちの父であることを感謝する日でもあるのだな。
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