大ハード2(粟島最終編)

 さあ大ハードの続編、大ハード2の始まりざんす。



 自転車を借りるときにスマホの充電器も借りることができたため、まずは民宿に戻ってパソコンとスマホをドッキング。お、充電が始まった。わーお。

 これで安心して縦断の旅に出ることができるってわけであーる。



 さあいくぞ鉄輪23号!



 最初は颯爽と、ちょっとした坂道もマッハゴーゴーかっとびまーす。



 しかし、だんだんと苦しくなるし。椅子が低くてペダルがこぎ難い。うわうわ、止まりたくない。でも、止まる。勝手に止まる。



 ふつう自転車って漕ぐのをやめても惰性で前に進むのだけど、坂が急すぎて足の動きが止まるとそれっきりですわ。タイヤは1ミリも前に動かずしっかりと止まるのですわあ。



 なんてこったい。ああ、転ぶ。もうダメ、きゃー。というわけで、急な坂道でどうにもならなくなって自転車から降りてしまいましたて。



 その挫折感ったらありませんわー。自転車を押しながら「ぜーぜーぜーぜー」と荒い呼吸は治まらず。坂道を自転車と一緒に上っているというだけでも、かなりの重労働なんですわね。



無段変速のママチャリで粟島を横断しようなんて、ちょっと無謀だったのかも。 

500円が1000円になってもいいから、粟島横断には変速のついた自転車が嬉しいと思ったわ。村の会議に出ることがあったら提案したいっす。

あっ、もしかしたら粟島浦村の人たちって、日ごろからこんな道をママチャリでで走りまわっているのだろうか。だから変速自転車の必要性を感じていなかったとか。そうだとしたらすっごーい。





しかし、疲れたからといってこのままやめちまうのって気分わるー。

ちくしょー、なんとか方法考えろ、オレ。



だが、考えても楽になる方法などない。

とりあえずこのあとは、必殺の「立ち漕ぎ!」でいこう。

サドルに腰かけず、立ったまま漕いでいけば足の力だけでなく自分の体重も使えるではないか。よーし、その作戦でいこう。かなり疲れるけど。



前のカゴに入れておいたスポーツドリンクをガブ飲みし、水分補給。

既に着ているシャツは汗でビチョビチョ。もちろんパンツもビチョビチョ。



「うおーっ!」と立ち漕ぎして前に進んでいったら、前方に自転車を押しているカップル発見。おう、先ほどオレの先に自転車借りてた二人じゃないか。男のほうは、汗だくで上半身裸。いや、気持ちはわかる。ついでにパンツも脱げー(うそです)。



立ち漕ぎしながら二人に「こんにちは!」と挨拶し颯爽と抜き去り・・・いや、実際はビミョーな速度差で抜きながら「辛いっすねー、でもがんばりましょーね」なーんて上から目線でエールを送る哀愁のエッセイスト。



しかーし、あの二人のおかげその後、かなり苦しむことになるのであった。

なぜかって? だって、一回抜いたのに途中で休んで抜かれたらカッコわるいじゃないっすか。しかも、「がんばりましょー」なんて上から目線で言っちゃってるんだし。



その先、さらに坂が急になり

「あー、降りてしまいたいなあ。あの二人を抜かなければよかったなあ。失敗したなあ」と後悔したけれど、ここは意地を通さねばならないわけで、



「ええい! 根性! あほー! ホルモン食いてー!」とかなんとか意味不明の気合いを入れながら立ち漕ぎ立ちだあ。



しかし、ほとんど限界。全体重をかけてもペダルが降りないすっげー坂になってしまい、たまらずダウン。



けれど、ここで立ちどまってはイカン、後ろのカップルに歩いているところを見つかってはイカン。オレは最後まで自転車を漕ぎ続けて粟島を制覇した男を演じるのだあ。だから走りながら押すんだあ。「ぜーぜーぜーぜーぜーぜーぜーぜー!」。重力のバカヤロー。



800メートルダッシュしたときより苦しー。

しかし、押せー。

カップルに見つかっちゃイカーン。

押せー。



なんか、すげー見栄はりなのかも、オレ・・・って気がしたけど。



そしてまた坂の角度が緩くなるとママチャリで立ち漕ぎ。



何キロかそんなことを繰り返したかな。

このまま引き返して下ったらどんなに楽だろうって思いながら、「上り次のカーブまでだ、もうすぐ下りだ」と言い聞かせながら前に進んでいたのであります。しかし、カーブを抜けるたび見えるのは上り坂。orz  さすがにくじけそう。



もうどれくらい時間が過ぎたのだろう。時計を見ていたのだけれど、なにもわからない。

実際は数十分のことなのかもしれないが、何時間も苦しんでいた気分。



ああ、やっぱりもうダメかもボク。全身の水分抜けちゃっているかも。もうスポーツドリンク空っぽだし。もちろん道中に自販機などない。パトラッシュ、ボク疲れたよ。



なんて思っているところに「灯台入口」という看板が見えた。

粟島の灯台ってのは、やっぱりいちばん高いところにあるんだろう? ちゅうことはもうすぐ下りだ。そうだろ、下りだろー。下るぞー。



ああ、そうです、やっぱりそうです。そのあと下りが始まったざんす。

おー、すげー、爽快だあ。漕がなくても自転車が進む。



ああ、重力さんありがとう。さっきはバカなんて言ってごめんなさい。



いやー、疲れた。がんばってよかった。

おかげで、こんな景色を見ることができたもの。



海は広いな大きいな。鉄輪23号、がんばった。



そのあとは、ひたすら下り。後ろブレーキがヘンな音しだすくらい、ブレーキかけまくり。

それでもけっこうなスピードが出て、火照った体が涼しい風に冷やされまーす。





そして、釜谷に着いたー。粟島の裏側ざーんす。

やったー。



数年前、釜谷の民宿のオヤジさんのお世話になって粟島の旅ガイドを書いたことがあり、ひさしぶりにそのヤジさんに会いたいなーと思ったら、道路の端っこでスマホしてるし。



「お久しぶりでーす!」

「おー、元気だか! 自転車できたんか。バカかオメー」みたいな会話をして



「この前、アワシマケマイマイ見つけたぞ。そのときアンタのこと思い出したさ」なーんて嬉しいことを言ってくれた。



「じゃ、またー。お元気でー」

「おう、またなー」

と、淡白に別れたのであった。



せっかくここまできたのだから、初めて謎の生物を見つけた神社にもいってみようと思いたち、村の中の小路に入って自転車を止め、山道の階段を上ってついたところが、ここ。



写真ではわかりにくいかもしれないけれど、かなり急な石段をのぼってきたのでありまーす。その角度ったら、スキー場のジャンプ台に負けていないと思う。



粟島の釜谷地区は、平らな場所があんまりなくて、家も神社も墓も、急な斜面にくっつくようにして建っている。横に開けていくのではなく、斜め上に広がっていっている集落なのだ。



階段の途中で「本土よりちょっと大きい」という噂のマイマイカブリを発見。写真に撮ろうと思ったのだが、動きが早くてピントが合わない。



石段のところに、死んだ謎の生物の抜け殻があった。やっぱりここは生息地なのである。早朝のまだ朝露に濡れているときなら、いっぱいいるのかもしれない。



さて、そろっと戻らないといけない。帰りの船に乗れないと困る。

しかし、またきた道を上って戻るのはイヤだあ。



そんなわけで、みやげもの屋にいた地元のおばあちゃんのアドバイスに従い、距離は長くなるけれど島に海岸線にそった道を通って帰ることにした。



これが正解。たしかに坂道はあったけれど(勾配10%と書かれた標識があった)、粟島横断で移動した坂道と比べるとずっと楽。総距離は長くとも、疲れかたは段違いですっげー楽だった。





上ったあとはずっと下り。もう楽ちんだわー。



下り終えたら海岸線をのんびり走る、るんるんるん♪

粟島の海はキレイだな。



海鵜がイバった格好で岩の上にいるし。

タイタニックのあのシーンみたいにずっと羽根を広げてる。

体を乾かしているのかな。



粟島には馬もいるでよ。



むかしは粟島固有の馬がいたけど、気がついたら絶滅しちゃってたそうざんす。





11時ごろに宿について自転車を止め、部屋でくつろいだあとシャワーを浴びた。

ちょっとのんびりしていようかと思ったら電話が鳴った。スマホが充電されて生き返ってきた。電話は釣りにいっていた人から。



「釣れないから早目に終了するわ」とのことで、わたしも慌てて自転車を返しにいった。

宿でシャワー浴びたのに、また汗だくだわ。



2時の船に乗る前に、「乙姫の湯」という、ちょっと塩気のある温泉で汗を流した。そして、自販機のオニギリと、ひさしぶりにチョコモナカジャンボも食べて満足満足。



取材と視察と捕獲と、そしてハードに肉体トレーニングしたみたいなスッゲー濃い粟島一泊二日であった。ちゃんちゃん。







追伸:

宿から出るとき、ママチャリの後ろにちいさな子どものを載せたオトーさんが「わあ、坂だ坂だ坂だ、がんばるぞー」と喘ぎながら自転車を漕いでいた。

その姿を見ながら「しかしオトーさん、こんな平らなところを『坂』だと言ってもらっちゃ困るね、へっへっへ」と思っちまったさ。このあと、もっとすげー坂が待っているのだよーん。




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