N子さん
むかしむかし書いたエッセイの、その続きがプラスされました。
どうか読んでください。
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どうか読んでください。
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こういうところに書いていいのかどうか迷うところだけれど、もしかして、これがなにかの力になって、あの人のところに届くかもしれないと思って、書かせてもらうことにした。
「お願いだから目を開けて」
あの人の名前はN子さんと言った。
課はちがったが、勤めた職場にいた。
わたしより一回り年上の女性だった。
だれにでも親切な人だった。けっして人にいじわるをしたりイジメたりしない人だった。
いい人すぎて、貧乏クジをひいてしまうことも多かったけれど、みんなに好かれていた。
美人じゃないけれど、かわいい顔をしていた。目の大きい人だった。
ちょっと齢の離れた姉ができたみたいな気になって、わたしはすぐに懐いた。
よく笑う人だった。
なにを言っても怒らなかった。涙を流しながら陽気に笑う人だった。
わたしが似顔絵で「大顔連の人」「ビンボー金なし」「N子さん、頭が大きくてドアにぶつかってバスに乗れませーん」なんていう失礼なのものを描いてN子さんの机に貼っておくと、それを見つけてケラケラと呼吸困難になりそうなくらい笑ってから「こらー!」と怒りにくる人だった。
それらの絵は、わたしが辞めていったあとも、捨てずにぜんぶとってあると言っていた。
去年(当時)の秋、久しぶりに会ったときに聞いた。
「今日はおーちゃんのおごりだからね、なにを食べてもいいよぉ。おいしいもの、いっぱい頼んでね」って、ニコニコしながら焼肉をごちそうしてくれた。おーちゃんとは、N子さんの旦那さんのことだ。相思相愛、お似合いの夫婦だ。
なにかの数値が高くて、「お酒はお医者さんに止められているから」と言って焼肉屋さんでもウーロン茶ばかり飲んでた。
「気をつけてくださいよ。倒れたらたいへん。N子さんの場合、顔が大きすぎて救急車のドアに挟まっちゃうからね」と、言った瞬間「こらー!」と背中を叩かれた。久しぶりに聞いた笑い声だった。
N子さんが脳内出血で倒れたという話を聞いたのは一月前だ。
落ちついたら見舞いにいこうと思っていた。
ちょっとはブルーになっているだろうけど、持ち前の明るさでなんとかできる人だと思っていた。まだ若いのだからどんどん回復できるだろうと信じていた。
今日、N子さんの近い筋の人からメールがきた。読んで愕然とした。
あれから意識がないままずっと眠っているそうだ。なんども手術したんだけれど、面会謝絶のまま、いちども目を覚ましてくれないという。
顔も見にいけない。
「N子さん、目を覚ませ!」って伝えることもできない。
N子さん、まだまだ死ぬ齢じゃないでしょう。
おーちゃんと、これから旅行にいくんでしょう。
好きな歌、いっぱいいっぱい歌うんでしょう。
「こらー」って、元気に怒ってくれなくっちゃ悲しいでしょう。
あなたがこの世からいなくなるなんて、これっぽっちも想像しません。はやくはやく目を覚まして、リハビリはじめましょう。また大きな声で笑いましょう。
目が覚めたら、あなたの横で、いっぱいおもしろいこと言うから、お願いだから、目を覚まして、また笑ってください。お願いだから、N子さん。
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