ある体育祭の話


 ある体育祭

 


 みんながみんなのために走る、応援する、たたかう。


 この日がイヤでイヤでしょうがない子もいただろう。



 口には出さなくても、練習なんかメンドくさいと思っていた子だっていただろう。



 今日、心が苦しくて、どうしてもこれなかった人だっていただろう。子どもたちも、みんなたいへんなんだ。







 


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 遠くから見ていると、ニコニコ笑顔で自信のカタマリみたいに見えた応援団長。いまどきの若い子たちはちがうねえなんて思っていたけど、よーく見てみると、胸に手を置き緊張していた。カミサマカミサマと祈っていた。


 


 がんばれがんばれ。そんな姿を見ているから、他のみんなもがんばろうと思っちゃうのかもね。


 


 親として、久しく見ていなかったわが子の全力の姿。


 久しぶりに親の前でも全力でがんばるわが子の姿を見て、思わず涙ぐんでいるおかあさんとおとうさん。

 思いがけずに、つい出ちゃう涙だから、慌てて隠している。



 子どもに知られないよう、そっと涙を拭きとる。




 大好きだよなんて、口には出さなくなっても、愛情そのものは減ることはないんだ。


 


 バトンリレーの本番で、バトンを落としてしまってうなだれた子に「大丈夫だよ。よくやったよ」と、仲間が駆けよって肩に手を置く。「落としたけど、そのあと、懸命に走ってくれたじゃないの」って。




 ホントだよ。いいんだよ。「がんばろう」と思ってくれてありがとう。悔しがってくれてありがとう。申しわけながってくれてありがとう。




 仲間はみんなキミを応援している。すぐに拾って、次の仲間に繋げるために走りだしたキミに拍手を送っていたんだ。


 


 キミが次に待っている仲間のために、そんなふうにがんばれる人になっていたことに、オトナは感動しちゃうよ。




 ほら、応援席にいる仲間たちが待っている。

 キミが帰ってきて「ゴメン」って頭を下げたら、みんなが立ち上がってキミにエールを送った。代表して走ってくれてありがとう。一生懸命走ってくれてありがとうって。

 


 ほら、メガネのゴミを取るフリして、また涙を拭いているオトナがいたよ。


uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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