訓練塔:新潟市消防局の宝。日本海側初の高度な施設。
消防局レポート その3 完結編
消防車や救急車がサイレン鳴らして出動するときは、いつだって非常事態の現場に向かっている。
安全な火事だの呑気な事故だのお気楽な人命救助だの、そんな現場などはない。
いつだって誰かの命がかかっている。もちろん、自分の命もかかっている。
だから、生きるため、命を救うため、彼らは日々訓練を続ける。
消防車や救急車がサイレン鳴らして出動するときは、いつだって非常事態の現場に向かっている。
安全な火事だの呑気な事故だのお気楽な人命救助だの、そんな現場などはない。
いつだって誰かの命がかかっている。もちろん、自分の命もかかっている。
だから、生きるため、命を救うため、彼らは日々訓練を続ける。
上ノ山局長が局長室の窓を開け
「これが消防局の宝だよ」と言った6階建の訓練塔。
この前に紹介した無線鉄塔の後ろ側にある。駐車場からだと、その存在に気づかないかもしれないが、じつはここで日々重要な訓練が行われている。
今回、この中にも連れていってもらった。
下から見ると、こんなふう。
壁を使って、梯子をのぼる訓練。ロープで下に降りる訓練。ベランダに入っていく訓練などなど。この建物がすべてまるまる訓練に使われる。
この塔の右側に回ると、実火災訓練室がある。
扉を開けると、じゃーん。
このように鉄でできたベッドのようなものがある。
そばで見るとこんな感じ。マットレスを敷いたらまさにベッドのよう。
しかし、そんな優しいものではないのだ。
ここで寝ていたら、かなり危険だ。
こんなふうに、あっというまに燃えあがる。
天井にも火が走る。火の熱で一気に天井に炎が走るフラッシュオーバー現象を再現している。これは、人工的な火事を作りだす装置なのだ。
意外に思うかもしれないが、じつは、一度も火事の現場に出たことがない若い消防士さんが少なからずいるという現実がある。それはなぜかというと「火災件数が減ったから」という、わりと簡単な理由からだ。
火事は管内で毎日毎日何度も発生しているわけではない。
消防士さんの勤務形態は24時間働いて翌日が非番、そしてその翌日が休日、つまり3日に1回の勤務となる。毎日1回管内に火事があったとしても、出動する可能性は3分の1。実際の新潟市の火事はいま現在で116件(12月15日現在)であり、それが各管内での火災件数となると10~20件前後となる。そうなると、なかなか実際の火事に遭遇する場面がない。
もちろん火事がないのはいいことだし、火事が減ったのは偶然ではない。火事にならないために、消防士さんも我々消防団員も自治会も関係各所一丸でがんばっている。だからそれは、努力の結果によるものだ。
その一方、火事がないということで、火事場を経験しないまま数年を過ごす署員がいるのも事実。それは、その人にとってプレッシャーであろうと思う。いつ実際に燃える火を相手に初出動しなければならないのだろうと思うと、ドキドキではなかろうか。
また、いまはマッチを使わない自動点火だったり、オール電化の家庭も増えて、実際に「火」を体験したことが非常に少ない若者が増えている。
それで、「火」の怖さ、熱さを本番に近い環境で訓練できるように導入されたのが、この実火災訓練室なのだ。
わたしは最初この部屋の入口で立って撮影していたのが、もうかなり熱い。「熱いですね!」と言ったら、「体を低くすると楽ですよ」と言われ「あ、そうか」としゃがんでみたら、なるほど涼しい。
このことだけでも、実際の火を目のあたりにしたから感じることのできた体験である。消防署員さんたちは、ここをもっと過酷な状態にして、消火・救助の訓練をする。ちなみに、日本海側初の設備である。県の消防学校にもないのだ。
火のあとは水を見てもらおう。
潜水監視室という。
巨大な円柱の部屋であった。この円柱はなにかというと、プールなのだ。
プールといっても、もちろん娯楽用ではない。
この訓練塔には、直径5メートル、深さ7メートルの潜水訓練用プールがある。
この円柱のてっぺんの部屋に行ってみた。
中に入ったとき、そこは真っ暗だった。
夜間を想定した潜水訓練の真最中だったのだ。
彼らは、真っ暗な水の中に潜って人を救出する訓練をしていた。
モニターを見ながら教官が指示を出す。
そしてその後、こんどはプールの中が光り出し
底から無数の真っ白な泡が沸いてきた。
視界不良の濁った水を想定した訓練が始まったのだ。
彼らの仕事は消火活動ばかりではない。
命を救うためのプロ。それが消防士なのだ。
だから、こんな訓練もある。
これがなにかわかるだろうか?
じつは、地中に入ったマンホールを想定している。
ここで、マンホールに落ちた人を救出する訓練をする。
ここには三種類の太さのマンホールが用意されている。下のコンクリートの部分は、マンホールが繋がっている排水の通り道を想定している。まさに実際の現場と同じところで訓練している。
ここは事務所などの建物を想定した消火、救出訓練場。実際の什器備品を置いて訓練する。毎回水をかぶることになるので、全部コンクリートとなっている。
これは迷路。
観光地などにある巨大迷路と仕組みは同じであるが、こちらの目的は「生きて戻ってくる」ためのものだ。移動可能な金属の板で迷路が作られているので、何度かやって通路を覚えてしまうことはない。視界不良の場所から、壁づたいに脱出するための訓練に使われる。
これはマンションを想定した訓練。扉の向こうには、それぞれちがった間取りの空間がある。扉が鏡のようになっているのはなにか意味があるのかと聞いてみたら、錆びないステンレスを使っているためとのこと。べつに自分の勇姿を写すためにあるわけではなかった。
扉の向こうのマンションの中。
ここも訓練で水浸しになるので一面コンクリートでできている。
ベランダもある。眺めもいい。
実際の部屋と同じようにできているから、家具を置けば住むこともできそうだ。
建物の外では、新人の消防士さんが放水の訓練を行っていた。
虹がかかっていた。
これでわたしの消防局レポートを終わるが、じつはこの何倍も写真を撮ってきたし見てきた。
この取材を通じて、あらためてモノカキをやってきてよかったと思った。
こんなふうにいろんな世界を見ることができるのだ。その見てきた感動を、読む人にちゃんと伝えられ「よかった」と言ってもらえたら、とても嬉しい。
長文のおつきあい、ありがとうございました。
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